風に関する諸問題

野口 恭平

野口_写真_web.jpg 2008年に京都大学工学部地球工学科に入学後、工学研究科社会基盤工学専攻修士課程および博士後期課程を経 て、2017年4月より八木知己先生の研究室で助教を務めています。高校を卒業後に地元北九州を離れ上洛し、はや10年が過ぎました。学生時代はテニス中心の生活を行っていた自分が、気がつくと博士課程にまで進学し、いま現在も大学に籍があることが大変不思議に感じられます。周りの先生方や友人たちに囲まれている中で、知らず知らずのうちに研究に魅了されていたのかもしれません。助教となってからは新たな生活に苦労しながらも、最近は授業に携わる機会も少しずつ増えてきまして、時には八木先生からの叱咤激励を受けつつではありますが、大学教員の醍醐味を感じているところであります。
 私たちのグループは本学名誉教授の白石成人先生・松本勝先生を嚆矢として、現在に至るまで風作用による橋梁等構造物の振動問題に取り組んできました。長大橋においては静的な風荷重だけではなく、動的な空力振動が問題となりますので、あらかじめその耐風安定性を評価することが求められます。なお、これまでは風洞実験によって各種の計測を行ってきましたが、近年のコンピュータの発達に伴い、数値流体解析(CFD)による研究も進めています。風洞実験と CFD では一長一短のところもあり、両者をうまく利用することが肝要であると考えています。
 一方、近年は長大橋建設のプロジェクトは減少していることもあり、風工学に関連した新たなテーマに取り組むようにもなりました。その一つに「飛来塩分の輸送シミュレーション」があります。その内容について、簡単ではありますがご紹介いたします。
 海岸付近に位置する構造物の維持管理においては、しばしば海塩粒子の存在が問題となります。塩分は水・酸素とともに鋼材の腐食因子の一つですので、橋梁の劣化を考えるうえで塩分の存在を無視することはできません。そのため、どれだけの塩分が橋に付着するのかが気になります。海塩粒子は風に乗って海から運ばれ、最終的には橋の表面に付着しますので、橋周りの風の流れが分かれば付着量も分かると考えられます。そこで私たちは、橋梁周りの風の流れについて、CFD を利用して算出しました。さらに、適当なモデルを考案し、橋の部位ごとに塩分付着量を精度よく評価することに成功しました。一方、橋に付加部材を設けることで風の流れを強制的に変化させて、付着量を減らす試みも行っています。現在のような時代の流れにおいては、このような“新たな”テーマを開拓するとともに、“伝統的な” 橋梁の耐風安定性という問題にバランスよく取り組むことが必要であると考えています。
 最後になりますが、私の恩師であります白土博通先生が5月31日に逝去されました。上述の飛来塩分に関する研究も、白土先生のご指導の下で行ったものです。ご体調を崩されてからも学生の研究指導のことばかり考えておられるような先生でした。これまでのご指導・ご鞭撻に厚くお礼申し上げるとともに、白土先生のご冥福をお祈りいたします。

(助教 社会基盤工学専攻)