縁の繋がり

薗林 豊

顔写真_薗林_web.jpg 高校 1 年生の時、進路の参考とするため、ある大学の理工系研究室を複数見学させていただきました。その中に、強烈に脳裏に刻まれる研究室がひとつありました。その研究室は実験室中に化学物質と思しき独特の臭いが広がっていて、その臭いが得意ではなかった私は、どのような研究が行われているのかも分からないままこの分野には進まないでおこうと思ったものでした。私はこの大学とは別の大学に進学し、4 回生の時にある研究室に配属となりました。その研究室は私の第一希望で、配属希望者が多かったためジャンケンをして何とか配属を勝ち得た研究室でした。その研究室は光化学や有機合成化学が専門で、エバポレーターやナス型フラスコ、ガロン瓶が並び、有機化学物質の独特の臭いが時折漂う研究室でした。高校生の時に「進まないでおこう」と思った研究室の光景と、この時の研究室のそれが重なることに気付いたのは配属から暫く経ってからの事で、不思議な縁と自身の変化に思わず笑いを禁じ得ませんでした。
 ただし、この研究室では珍しく、私の卒論・修論は固体試料の表面改質に重きを置いたもので、特に修論では種々のシランカップリング剤を用いました。修士課程修了後、私は化学メーカーの研究開発部門に勤め、表面改質から一旦離れたのですが、今から 14 年前に現職に転じたのがひとつの契機となりました。工学研究科材料工学専攻の杉村博之教授の研究室に配属となり、シランカップリング剤や表面改質と再び繋がり、表面分析の実験機器を操作・管理し始めるようになったのです。約 11 年前、同専攻の技術職員組織として教育研究支援室が発足し、研究室配属だった技術職員は教育研究支援室に移って同専攻の全 12 研究室に技術貢献する形態へと変化しましたが、私は現在も引き続き表面分析機器の業務に携わっています。
 私は、同専攻の共通分析機器を用いた受託分析・操作指導・管理保守、学部 3 回生の学生実験、安全衛生業務、電子掲示板等の情報技術業務などを担当しています。この専攻共通分析機器に、表面分析で用いる XPS(X 線光電子分光装置)、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)、エリプソメータ等が含まれています。一般的に、市販の分析機器は初心者でも操作できてそれなりの結果が容易に得られるように設計・製造されます。しかし、様々な試料を正確に分析するには、各試料に適した準備・測定条件・解析手法を使用者自身が選択しなければなりません。XPS はこのノウハウや知識がひと際求められる分析機器で、測定条件や解析手法が適切ではないために解釈を誤っている論文があるほどです。学生時代に FT-IR は使用経験があるものの、XPS は使用経験がありませんでした。この時、同専攻の河合潤教授に一般社団法人表面分析研究会をご紹介いただきました。同研究会には XPS 等の表面分析機器を使用する研究者や企業の分析技術者、装置メーカーの技術担当者等が多数所属していて、実用面での表面分析技術を数多く入手できる環境でした。私は同研究会に入会し、様々な技術情報を入手するとともに、学外の技術者と繋がることができました。
 XPS では全学から分析を受託していますが、学外の技術者から得られた技術情報はこれらの分析に大いに役立っています。初めてお会いする XPS 業界の方に「お名前は存じておりました」と仰っていただけるまで技術を伸ばせたのは、今までの縁の繋がり無しでは考えられません。これからも縁を大切にして技術を向上させていく所存です。

(技術専門職員)