クラスターをのり超えて-工学研究科の「横」のつながりの大切さ

前副研究科長 竹内 繁樹

竹内先生 桂キャンパスに初めて訪れた際,「Aクラスター」などの「クラスター」という言葉に聞き慣れなさを感じた。その後,山の斜面に配置されたキャンパスの建物群を,ブドウの房(クラスター)に見立てたこと,その名残が各クラスターのロータリーに配置された,ブドウの実に見立てた石の球だと知り,すっきりしたのを覚えている。その「クラスター」という言葉も,この1年のコロナ禍ですっかりおなじみになってしまった。
 私自身は,京大の理学研究科(物理)で修士を終えた後,民間企業を6年半,北大14年半(阪大常駐6年含む)を経て,2014年に電子工学専攻に着任した。そしてこの3年間,研究科の運営に参画する機会をいただき,その任務の一つとして,広報委員会の副委員長を務めた。本稿では,そこで感じた工学研究科の多様性や,本誌を含む工学研究科・工学部の広報について考えたことを書かせて頂きたい。
 運営会議は,毎月2回,第1週と第4週におこなわれる。研究科長,5学系から選出の副研究科長・研究科長補佐,および桂地区事務部長と課長の皆様が出席する。議題は,入試制度,人事制度や施設整備など,工学研究科・工学部に関わる全てのことに渡る。一つの案を錬るにあたり1時間以上意見を交わす場合もあり,1回の会議は,短いときで2時間,長い場合は5時間を超えることもあったように思う。
 正直,運営会議に参加するまでは,他学系の先生方とじっくりお話しする機会も殆どなかった。しかし,これだけの回数と時間,顔を合わさせて頂くと,各学系からの先生方のお人なりや,また他系の状況も徐々に分かってくる。また,桂地区事務部の皆様のそれぞれの業務内容も理解が進む。これは,本当にありがたい経験だったと思う。
 そこで得た実感は,工学研究科を構成する学系・専攻は,その研究の幅広さはもちろん,文化や考え方も多様であることだ。地球温暖化対策に象徴されるように,より課題解決・統合型の研究が求められる中,この多様性は潜在的に巨大な力である。それとともに,この5学系の横のつながりの大切さも強く感じるようになった。私の研究室では,ダイヤモンド中の結晶欠陥を用いた光量子デバイスを研究しているが,関連する研究を,原子核工学専攻でも行っておられることを運営会議で知ったときは驚いた。桂キャンパスに集う教職員,研究者が,より横のつながりを持ち,力を結集することができれば,京都大学らしい,どこにもない面白い研究に繋がるのでは,と強く感じるようになった。
 そして,「隣の学系,専攻の研究状況,また工学研究科内の出来事」を知るための貴重なメディアが,実は本稿の掲載されている「工学広報」である。そこで,この工学広報のメディアとしての価値を高めることを試みた。まず目指したのが,「発行時期にタイムリーな,関心を持ってもらえる記事」である。桂図書館の開館に合わせた記事や,本号のAクラスターのベーカリーカフェの紹介記事がその試み例である。また,「桂に集う教員・職員・学生の顔が見える」こと,「歴史の貴重なアーカイブ」であることも意識した。コロナ禍での研究科長を始め,教員,職員,技術職員の皆様の努力は,前号,今号と継続して取り上げている。また,各学系の努力で受け入れを開始した,Kyoto iUP生についても紹介を始めた。
 また,工学広報は,冊子体とオンライン版で発行されている。毎日無数のメールが飛び交う中,リアルな「冊子体」の持つ役割は逆に増している様に感じる。例えば,京大東京オフィスを利用する学内外の方に「手にとって」もらうのは,冊子体以外では難しく,今後高校などへの配付も進めば素晴らしいと思う。一方,オンライン版には,新規教員着任情報など,冊子体に載せきれない情報も掲載している。2020年末に,事務部の皆様のご提案で,工学研究科・工学部のツィッターも開始している。本誌の表紙のQRコードから,ぜひ一度これらにもアクセス頂きたい。
 今後も,桂キャンパスに集う研究者学生が,標高差100mの「クラスター」の壁を乗り越え,連携が深まり,桂キャンパスが新しく面白い研究の場「桂テクノサイエンスヒル」となることを願ってやまない。最後に,研究科長はじめ運営会議構成員の皆様,広報委員会委員の先生方,総務課の皆様,関係の全ての皆様に心より感謝申しあげます。

(電子工学専攻 教授)

雪の帽子をかぶった石球
雪の帽子をかぶった石球