建築学教室創立 100 周年記念事業報告

教授 原田和典

原田和典

1.建築学教室の沿革
 1920(大正9)年8月18日に創設された京都大学工学部建築学教室は,2020(令和2年)に100周年を迎えました。沿革を表1に示します。学科・専攻では創設以来一貫して「建築」という名称を用いてきました。建築が人々の生活基盤として必要不可欠なものとして存在するように,建築学科も次の百年に向けて持続可能な発展を目指す決意を新たにしたところです。




表 1 建築学教室の沿革

1920年8月

創設(3講座)
1921年4月 第4講座開設
1950年4月 第5講座開設
1953年4月 修士課程建築学専攻を設置
1955年4月 博士課程建築学専攻を設置
1963年4月 建築意匠学講座開設
1964年4月 建築学第二学科創設,建築材料学講座開設
1965年4月 建築環境学講座,鉄骨構造学講座,地域生活空間計画講座開設
1966年4月 建築基礎工学講座,鉄筋コンクリート構造学講座開設
1967年4月 建築環境調整学講座,建築施設計画講座開設
1968年4月 修士課程建築学第二専攻を設置
1970年4月 博士課程建築学第二専攻を設置
1991年4月 建築材料学講座が環境地球工学専攻の基幹講座に,建築環境調整学講座および建築施設計画講座が協力講座となる。
1996年4月 建築学科と建築学第二学科を統合し建築学科となる。大学院は建築学専攻,生活空間学専攻および環境地球工学専攻(建築コース)となる。
2003年4月 大学院を改組し工学研究科建築学専攻および都市環境工学専攻(建築コース)となる。
2010年4月 建築学専攻と都市環境工学専攻(建築コース)を統合し,建築学専攻となる。


2.記念事業の概要
 建築学教室では,1990(平成2)年に創立70周年記念行事を開催して以来5年ごとに記念事業を行ってまいりました。社会の変化に対応し,新たな時代の建築を拓いていくためには,建築学教室の教員,学生のみならず社会の中で活躍している同窓生が協働していく必要があります。そのため,歴史を振り返り未来を考える契機として,創立100周年記念事業を実施しました。本事業では,2021年3月に記念出版書籍を刊行し,同年8月に記念行事を実施しました。
 記念行事は,2021年8月28日(土)に京都大学百周年時計台記念館において実施しました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため,会場には最小限の約30名が集まり行事を進行しました。その模様はZoomのウェビナーによりオンライン配信され,561名の方にご視聴頂きました。プログラムの概要を以下に示します。

2‐1)国際ワークショップ(10:30~12:00)
 国際ワークショップ「海外ネットワークのプラットホーム」は,神吉紀世子教授の司会,鉾井修一名誉教授のコーディネーションにより開催されました。
 近年の留学生の増加や,国境を越えた教育・研究活動の増加,建設業のグローバル化を考えると,京大建築会(建築学科同窓会)においてもグローバル化が欠かせません。このワークショップでは,元留学生をお招きし,京大卒業後の教育・研究もしくは実務活動の近況をお話し頂き,海外在住の卒業生との連携方法を考えました。
パネリスト(敬称略):
 李永輝/Li Yonghu (中国・東南大学)
 Siwaporn Klinmalai (タイ・タマサート大学)
 Sachi Hoshikawa (米国・Miliú LLC)
 Mahdi Raouffard Mohammad (日本・大成建設)

2‐2)京大建築会総会(14:00~15:00)
 総会は,会場参加者21名,オンライン参加者286名,合計307名の参加を得て実施しました。
 冒頭の金多潔会長のご挨拶では,歴史を振り返ると,戦争,敗戦,教育制度改革,大学紛争,国立大学法人化,桂キャンパスへの移転など様々な苦難を乗り越えてきたことを改めて認識し,未来に向かって魅力ある建築学教室を創られるように祈念されました。
 次に,来賓祝辞として湊長博総長から学内の各同窓会へ向けたビデオメッセージを上映いたしました。椹木哲夫工学研究科長には,桂キャンパスからオンラインでご参加頂き,ご祝辞を賜りました。これまでも建築学教室との交流がご自身の財産になったことを述べられ,コロナ禍の時代にも人の心をまとめ上げる人工物を作り出す建築学教室の尽力にご期待を頂きました。
 続いて,常任委員会報告(髙野靖教授),教室現況報告(神吉紀世子教授),京大工学基金(建築100周年)の設立報告(金多隆教授)により,建築学教室の現況が報告されました。記念出版については,2020年度の総長裁量経費の補助を受けて「京都大学建築学100年の歩み」を京都大学学術出版会から刊行したことが,神吉紀世子教授より報告されました。書籍の装丁を図1に示します。
 総会の最後に,京大建築会の規約改正が審議され,これに基づき中村恒善名誉教授を京大建築会新会長に選出しました。会長ご就任にあたり,中村先生よりオンラインでご挨拶を頂きました。「同窓会には,生き方計画と人生の展開方法の智恵をリレーするしくみと場を提供する役割があること,学生たちに新時代向けの進路選定に役立つように情報を与えること,成功された人の生き方の工夫の記録を会報に寄稿すること等の役割が考えられます。教室の発展を通じて在学生のレベルの向上を図ることも大切です。百周年は次の百年への新展開(Commencement)と考え,厳しい時代であっても学生に道標を示すことが大切です。」

図1 記念出版書籍
図1 記念出版書籍

2‐3)記念コンペティション授賞式(15:00~15:50)
 100周年を記念したコンペティションは,「これからの街の遺伝子」と題して100年後の街に引き継がれていくような考え方を持った建築案をアイデア部門および実作部門の2部門で募集しました。平田晃久教授により企画運営され,OBがボランティアで審査員を務め,京大建築会関東支部メンバーにより事務局運営が行われました。両部門とも,金賞,銀賞,銅賞および佳作5件が選ばれました。
受賞作品
 アイデア部門
  金賞:豊永嵩晴 記憶の現像術
  銀賞:羽村祐毅・羽村弘・萬田隆
     伽藍の胸襟を開き,いま地域の変化に寄り添う
  銅賞:陸曦 Seaweed Forest
 実作部門
  金賞:藤田慶・川上聡・植森貞友
     蔵の家-京都祇園の酒蔵・土蔵の改修-
  銀賞:畑友洋 甲陽園の家
  銅賞:水谷俊博・水谷玲子
     まちへ広がる美術館-アーツ前橋-

2-4)記念シンポジウム(16:00~18:10)
 記念シンポジウムは「歴史の中の京大建築・社会の中の京大建築~世代を繋ぐリレートーク」と題して,聲高裕治教授の司会進行で行われました。図2に配信拠点の様子を示します。世代と分野が異なるパネリスト5名にご講演頂き,京大建築の歴史と役割,将来の発展を考える機会となりました。
パネリスト(敬称略):
 西川幸治(名誉教授)
 竹脇 出(建築学専攻 教授)
 永田久子(東畑建築事務所)
 吉田 純(京都市東京事務所)
 大西麻貴(大西麻貴+百田有希/o+h)
 シンポジウムの締めくくりでは,聲高裕治教授より以下の総括が行われました。「高い能力を持つ学生が京大に入って,その土壌の中で出る杭になっても打たれない,むしろ自ら出る杭になり,「自由の学風」という空気を吸いながら成長します。そういう多様な学生を,日本さらには世界でトップクラスに立っておられる先生方が受け入れて,知恵と知識を受け渡す「共育」を行っています。このような流れが100年間の歴史の中で培われてきたのだと思います。この100年間の歴史を,次の100年に続けていくのが,われわれに課された使命だろうと思います。」

図2 記念シンポジウム(配信拠点)
図2 記念シンポジウム(配信拠点)

3.謝辞
 オンラインという不自由な形での開催となりましたが,多くの方々にご参加頂きました。企画から実施に至る過程での様々な側面においては,組織委員会,実行委員会,発起人の皆様を始め,多くの方々のサポートを頂きました。事業実施の経費については,主に卒業生各位から京大工学基金(建築100周年)への醵金から支弁しました。また,会場費の一部は京都大学同窓会からのご支援を頂きました。末筆ながら関係各位に深く感謝申し上げます。

(建築学専攻)