建築の設計と研究について
准教授 猪股圭佑

2012年4月から武庫川女子大学建築学科で講師として働くことになって研究活動を再開し,2018年にはビザンティン聖堂の研究で京都大学博士(工学)の学位を取得しました。武庫川女子大学では学生と一緒に駅や住宅,庭園などの設計プロジェクトに参画し,建築学部の2つの新校舎の設計も担当しました。これらの新校舎は武庫川女子大学が学舎として活用している甲子園会館(旧甲子園ホテル)の特徴を現代的に再解釈した建築です。甲子園ホテルはF.L.ライトの弟子である遠藤新の設計で,タイルなどの豊かな装飾的材料の使用と近代的な空間構成が高く評価されていますが,この建物について学生と実測調査を行い,2022年にはその成果を兵庫県立美術館の展示会「甲子園会館に学ぶ/で学ぶ」において発表することができました。その後,2025年3月から京都大学工学研究科建築学専攻で勤務しています。
設計事務所を辞めて大学で働くことになってから,修士課程で行った研究を発展させて,ビザンティン聖堂の建築と壁画の研究を続けています。ビザンティン聖堂とは中世の東ローマ帝国のキリスト教聖堂のことで,建物内部に多くの壁画が描かれているのが特徴です。キリスト教絵画はそれぞれが独立した絵画空間としてその画面の中でキリストや聖母マリアの物語を表現していますが,全ての絵画は様々な図像の組み合わせであり,個々の図像がビザンティンの伝統にもとづいた宗教的意味を持っていて,それらの図像が合わさって一つの絵画を構成します。さらにビザンティン聖堂では,複数の壁画が関係し合うことにより,一つの壁画では示し得ない神学的意義を表現するとともに,壁画が建築とも関係づけられることによって神聖な空間をつくりだしています。この建築と壁画によって構成された空間は,時代によって変化し,過去に意味付けられた空間の上に新たな建築と壁画との関係性が重なって,より複雑な空間が形成されます。
ビザンティンの人々は建築と壁画によって宗教的な意味を表現し,聖なる空間を実現しました。機能が最優先される現代の建築設計においても,有意味な空間を創造することはできるのか,そんなことを考えています。
(建築学専攻)
