クリックケミストリーにより細胞内脂質を超高速で解析ー代謝異常の原因遺伝子を同定する技術開発に成功ー

JST 戦略的創造研究推進事業において、合成・生物化学専攻の 浜地 格 教授、田村 朋則 講師、土谷 正樹 助教らは、2022年ノーベル化学賞のクリックケミストリーを独自に発展させて、細胞における脂質の代謝状態を超高速に解析できる新技術「O-ClickFC」を開発しました。

従来型の細胞の脂質分析では、大量に集めた細胞抽出物の放射線分析や質量分析を行う方法が主流でした。この方法には多大な時間と労力がかかり、多数のサンプルを解析する際の課題となっています。2万種類にも及ぶ人の遺伝子と脂質代謝の関わりを突き止めるためには、本課題の解決が重要です。

本研究グループは、生きている細胞の中で脂質に蛍光色素を標識できる独自のクリック反応を利用して、細胞内における脂質の「存在量」と「空間分布」を、単純な蛍光シグナル情報へと変換し、超高速(1万細胞/1秒)に解析する技術「O-ClickFC」を開発しました。本技術と2020年にノーベル化学賞を受賞した「ゲノム編集」を組み合わせることで、人の全遺伝子の変異を持つ細胞集団から、脂質の代謝が異常な細胞を選別し、その原因遺伝子を同定することができます。本研究グループは実証実験として、人の脂質の主要成分であるホスファチジルコリン(PC)の代謝に重要な遺伝子49個を同定し、FLVCR1など多数の新規遺伝子を発見しました。詳細な解析から、FLVCR1は生命維持に必須の栄養素コリンを細胞内に取り込ませる役割を持つことを見いだしました。さらに、遺伝性神経疾患の原因となる変異型FLVCR1は、コリン取り込み活性を喪失するという病態発現メカニズムの一端を解明しました。

がん・肥満・糖尿病などの病気の背後には、代謝の異常があることが明らかになっています。本技術を、脂質だけでなく、糖やアミノ酸などのさまざまな代謝物の解析に応用することで、病態発現と代謝異常を結びつけている遺伝的要因の解明や、創薬標的の候補分子の発見が加速していくと期待されます。

本研究成果は、2023年3月13日午前11時(米国東部時間)発行の国際科学誌「Cell Metabolism」に掲載されました。

研究詳細

クリックケミストリーにより細胞内脂質を超高速で解析ー代謝異常の原因遺伝子を同定する技術開発に成功ー

研究者情報

書誌情報

タイトル

“Organelle-selective click labeling coupled with flow cytometry allows pooled CRISPR screening of genes involved in phosphatidylcholine metabolism”

(オルガネラ選択的クリックケミストリーとフローサイトメトリーの技術の融合によってホスファチジルコリン代謝に関わる遺伝子の網羅的な探索が可能になる)

著者

Masaki TsuchiyaNobuhiko TachibanaKohjiro NagaoTomonori TamuraItaru Hamachi 

掲載誌 Cell Metabolism
DOI  10.1016/j.cmet.2023.02.014
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