耐火ハイエントロピー合金の脆性と延性を支配する因子の解明 ―多様な元素が拓く優れた合金の開発―

材料工学専攻の乾晴行教授、都留智仁・国立研究開発法人日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究センター研究主席らは、実験、理論、原子・電子シミュレーションを用いて、二つの代表的な耐火ハイエントロピー合金(RHEA)が示す力学特性と機構について検討を行いました。

タービンブレードで使用される合金では耐熱性能が限界にきていますが、エンジンや発電プラントの効率を高めるためには運転温度を上げる必要があります。そのような要求から、高い融点を持つRHEAは超高温用途の新しい合金候補として期待されています。一方、RHEAの多くは体心立方構造(BCC)を持ちますが、室温で脆いという欠点が知られています。

これまで、チタン・ジルコニウム・ハフニウム・ニオブ・タンタル合金:TiZrHfNbTaRHEA-Tiとする)とバナジウム・ニオブ・モリブデン・タンタル・タングステン合金:VNbMoTaWRHEA-Vとする)という2つの代表的なRHEAが広く研究されてきました。これらは、強さや延びが全く異なることが報告されていますが、その要因はわかっていませんでした。

本研究では、優れた合金設計の指針を得るため、両者の違いを温度変化を考慮した詳細な実験と原子レベルのシミュレーションから解明しました。実験の結果、RHEA-Tiは室温以下の低温でも優れた強度と延性を示すことが確認されました。さらに、電子状態計算に基づくシミュレーションによって、RHEA-Tiで観察される高い強度と低温における延びは、第IV族(HCP)元素添加による電子の結合状態に基づく効果によってもたらされることが明らかになりました。

以上の結果は、戦略的な元素設計がRHEA合金の機能制御に大きな威力を発揮することを示しています。実験と電子状態計算の連携によって、RHEAの複雑な力学特性を決める本質を捉えることに成功しており、本知見を生かした元素戦略に基づく合金設計により、次世代の高温構造用途に向けた新しいRHEAの開発が期待されます。

本研究成果は、2024年224日付(日本時間)で英国の学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

研究詳細

耐火ハイエントロピー合金の脆性と延性を支配する因子の解明 ―多様な元素が拓く優れた合金の開発―

研究者情報

書誌情報

タイトル

Intrinsic factors responsible for brittle versus ductile nature of refractory high-entropy alloys(耐火ハイエントロピー合金の脆性と延性を決める性質の本質的要因)

著者

Tomohito Tsuru(都留智仁)*・日本原子力研究開発機構 研究主席、Shu Han(韓 恕)・京都大学 博士課程学生、Shutaro Matsuura(松浦周太郎)*・京都大学 修士課程学生(卒業)、Zhenghao Chen(陳 正昊)・京都大学 助教、Kyosuke Kishida(岸田恭輔)*・京都大学 教授、Ivan Iobzenko・日本原子力研究開発機構 博士研究員、Satish I. Rao・ジョンズ・ホプキンズ大学 非常勤研究員、Christopher Woodward・米国空軍研究所 退職、Easo P. George*・テネシー大学 教授、Haruyuki Inui(乾 晴行)*・京都大学 教授

*は責任著者)

掲載誌

Nature Communications

DOI https://doi.org/10.1038/s41467-024-45639-8
KURENAI http://hdl.handle.net/2433/287270

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