ステンレスの低温強度が飛躍的に向上するメカニズムを中性子で解明ー結晶粒超微細化で延性を失わずに高強度化ー

【発表のポイント】

  • 一般的に金属材料は、低温環境下で強度が向上しますが、延性が低下します。低温で使用される機器や設備の安全性や性能を高めるために、低温でより優れた強度と延性を持つ材料が求められています。
  • 本研究では、一般的なステンレス鋼(SUS304)の結晶粒を、特殊な設備を必要としない手法で1ミクロン以下に超微細化することで、低温での延性が大きく低下することなく、強度が飛躍的に向上することを見出しました。
  • 結晶粒超微細化SUS304ステンレス鋼の低温変形メカニズムを、中性子回折などで調べました。その結果、結晶構造の変化や結晶欠陥の活動などの複数のメカニズムが段階的に起こることが、優れた強度と延性を両立させていることを明らかにしました。
  • 本結果は、他の金属材料においても、結晶粒超微細化によって低温での機械的特性を向上させられる可能性を示しており、優れた低温用構造材料の開発につながることが期待されます。

結晶粒を超微細化したステンレス鋼は低温状態でも室温と同程度の延性をもち、室温よりも強度が大幅に向上することを発見しました。さらに、J-PARC物質・生命科学実験施設(以下、「MLF」という。)に設置されている工学材料研究用中性子回折装置TAKUMI(以下「TAKUMI」という。)を用いて、変形温度の低下にともなう結晶構造変化と結晶欠陥のふるまいの変化が、結晶粒超微細化ステンレス鋼の低温での優れた強度と延性を生み出していることを明らかにしました。

液化天然ガスのタンクや輸送機器、超伝導磁石、宇宙探査用の機器など、低温で使用される機器や設備は多くあります。これらの機器や設備の安全性や信頼性を高めるために、低温状態でも優れた強度と延性をあわせ持つ材料が求められています。

本研究ではステンレス鋼の結晶粒を超微細化したところ、低温状態でも延性が低下せず、強度が室温よりも大幅に向上することを発見しました。また、中性子回折とデジタル画像相関法を同時に用いた分析によって、変形の初期段階では結晶構造の変化が支配的に起こり、これが結晶欠陥の発生と移動によって起こる塑性変形を遅らせることで、優れた強度と延性が両立していることを明らかにしました。

本研究で得られた知見は、結晶粒超微細化によって既存の材料の性能を高め、低温で優れた強度と延性を両立する金属材料を実現する道筋を示すものです。

なお本研究は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構J-PARCセンターのマオ・ウェンチ博士研究員(現:中華人民共和国东北大学)、伊東達矢博士研究員、ゴン・ウー研究副主幹、川崎卓郎研究副主幹、ハルヨ・ステファヌス研究主幹、京都大学大学院工学研究科材料工学専攻のガオ・シ准教授、辻伸泰教授の研究グループによる成果です。

本成果は、2024101日発行の英科学誌『Acta Materialia』にオンライン掲載されました。

研究詳細

ステンレスの低温強度が飛躍的に向上するメカニズムを中性子で解明ー結晶粒超微細化で延性を失わずに高強度化ー

研究者情報

書誌情報

タイトル

“Martensitic transformation-governed Lüders deformation enables large ductility and late-stage strain hardening in ultrafine-grained austenitic stainless steel at low temperatures”

著者

Wenqi Mao, Si Gao, Wu Gong, Takuro Kawasaki, Tatsuya Ito, Stefanus Harjo, Nobuhiro Tsuji,

掲載誌

Acta Materialia

DOI /10.1016/j.actamat.2024.120233
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