がんは「逃げる」ことで生き延びる―がん転移の起点は活性酸素種からの逃避だった―
日本人の死因の第一位はがんであり、その多くは原発巣ではなく「転移」による影響で亡くなります。しかし、がんはなぜ転移するのでしょうか?がんにとって転移はどのようなメリットがあるのでしょうか?これほど重要な問いに対する明確な答えは、これまで実はよく分かっていませんでした。
合成・生物化学専攻の髙橋重成 准教授、植田誉志史 同研究員、森泰生 同教授、清中茂樹 名古屋大学教授らを中心とした研究グループは、がん組織内に活性酸素種の一種である過酸化水素(H2O2)が高濃度に蓄積する領域(ホットスポット)が存在することを発見しました。この発見は、がん細胞周囲におけるH2O2の分布を1細胞レベルで可視化できるプローブを開発したことで明らかになりました。驚くべきことに、このH2O2ホットスポットでは、転移の初期段階を示す腫瘍「出芽」が活発に起きていることが判明しました。つまり、がん細胞は、自らにとって有害な活性酸素種から「逃れる」ために、転移の第一歩を踏み出しているのです。この発見は、がんの転移メカニズムの解明に貢献するとともに、転移を抑える新たな治療法の開発にもつながる可能性があります。
本研究成果は、2025年2月21日に国際学術誌「Nature Cell Biology」にオンライン掲載されました。
研究詳細
がんは「逃げる」ことで生き延びる―がん転移の起点は活性酸素種からの逃避だった―
研究者情報
- 髙橋 重成 京都大学教育研究活動データベース
- 森 泰生 京都大学教育研究活動データベース
書誌情報
タイトル |
Intratumour oxidative hotspots provide a niche for cancer cell dissemination (腫瘍内の酸化的ホットスポットはがん細胞の播種を促す場となる) |
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著者 |
Yoshifumi Ueda, Shigeki Kiyonaka, Laura M. Selfors, Keisuke Inoue, Hiroshi Harada, Tomohiro Doura, Kunishige Onuma, Makoto Uchiyama, Ryuhei Kurogi, Yuji Yamada, Jiacheng H. Sun, Reiko Sakaguchi, Yuki Tado, Haruki Omatsu, Harufumi Suzuki, Mike Aoun, Takahiro Nakayama, Taketoshi Kajimoto, Tetsuya Yano, Rikard Holmdahl, Itaru Hamachi, Masahiro Inoue, Yasuo Mori, Nobuaki Takahashi |
掲載誌 |
Nature Cell Biology |
DOI | 10.1038/s41556-025-01617-w |
KURENAI | ー |