多数の光子の“もつれ”を一括で測定する新技術を開発 —量子コンピュータやネットワークの効率化に期待—
電子や光子などの個々の量子状態を制御することで、飛躍的な計算能力を実現する量子コンピュータや、盗聴不可能な暗号を実現する量子暗号、さらに、従来の計測技術の限界を超える量子センシングなど、「量子技術」の研究が精力的に進められています。その中でも、光子は、長距離伝送が可能で、また室温でも量子状態が保存されるため、有力な担体です。特に、多数の光子が複雑に重ね合わさった「量子もつれ」状態は重要ですが、状態推定に一般的に用いられる方法では、光子の数に対して指数関数的に多くの回数の測定が必要となり、問題となっていました。
今回、電子工学専攻の朴 渠培(パク コベ)博士課程学生(研究当時)、岡本亮 准教授、竹内繁樹 教授らの研究グループは、広島大学大学院先進理工系科学研究科Holger F. Hofmann教授と共同で、多数の光子からなる「W状態」と呼ばれる量子もつれ状態を、一括で一度に識別する「もつれ測定(entangled measurement)」の方法を新たに開発、さらにその実証実験に世界で初めて成功しました。実験では、独自に開発した安定性の高い光量子回路を用いることで、0.871 ± 0.039 という高い「測定識別忠実度」を達成しました。今回確立された方法は、多数の光子間の複雑な量子もつれ状態を効率的に識別するだけでなく、多数の光子に対する量子テレポーテーションなどの実現に新たな道を開くものであり、将来の量子コンピュータの高度化や、より複雑な量子ネットワークの構築にブレークスルーをもたらすものです。
本成果は、2025年9月12日に米国の国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。
研究詳細
多数の光子の“もつれ”を一括で測定する新技術を開発 —量子コンピュータやネットワークの効率化に期待—
研究者情報
- 岡本 亮 京都大学教育研究活動データベース
- 竹内 繁樹 京都大学教育研究活動データベース
書誌情報
| タイトル |
Entangled Measurement for W states |
|---|---|
| 著者 |
朴 渠培(京大)、Holger F. Hofmann(広大)、岡本亮(京大)、竹内繁樹(京大) |
| 掲載誌 |
Science Advances |
| DOI | 10.1126/sciadv.adx4180 |
| KURENAI | http://hdl.handle.net/2433/296810 |
