極性金属に潜む構造ゆらぎの謎を解明 ―伝導電子が生み出す浅いポテンシャルと新しいダイナミクス―
「金属」と「極性(電気的な偏り)」は、物理学において長らく相いれない性質と考えられてきました。金属中を自由に動き回る伝導電子が、物質内部の電気的な偏りを打ち消してしまう(遮蔽(しゃへい)効果)ためです。この常識は近年の「極性金属」の発見によって覆されました。しかし、伝導電子が極性構造の安定性や相転移のダイナミクスにどのような影響を及ぼしているのか、その本質的なメカニズムは未解明のままでした。
物質エネルギー化学専攻の村山寛太郎 博士課程学生、化学理工学専攻の高津浩 准教授、陰山洋 教授、東京大学大学院理学系研究科の有田亮太郎教授らを中心とする国際共同研究グループは、金属的な電気伝導性を示すレニウム酸リチウム(LiReO3)において、極性構造と非極性構造の間で相転移が起こることを実証しました。さらに、転移温度(Ts)以下の低温領域においても、構造が静的に固定されるのではなく、構造ゆらぎが持続することを明らかにしました。
本研究では、伝導電子が極性構造と非極性構造のエネルギー差を極めて小さくする「浅いポテンシャル」を形成していることを解明しました。その結果、Ts以下でも動的なゆらぎが存在し、広い温度域にわたるヒステリシス現象や、超音波に対する残響的な共鳴吸収といった特異な物性が現れることを示しました。
本成果は、従来は排除すべきノイズと見なされていた「ゆらぎ」を、浅いポテンシャルに由来する本質的な物理現象として再定義するものです。極性と金属伝導の競合を利用した新たな材料設計指針を提示し、環境発電や省エネルギーデバイスへの応用が期待されます。
本成果は、2026年4月3日に国際学術誌「Science Advances」のオンライン版に掲載されました。
研究詳細
極性金属に潜む構造ゆらぎの謎を解明 ―伝導電子が生み出す浅いポテンシャルと新しいダイナミクス―
研究者情報
- 陰山 洋 京都大学教育研究活動データベース
- 高津 浩 京都大学教育研究活動データベース
論文情報
| タイトル |
Lattice softening and diffusive dynamics in the polar metal LiReO3(極性金属LiReO3における格子ソフトニングと散漫的ダイナミクス) |
|---|---|
| 著者 |
Kantaro Murayama, Ryota Masuki, Cédric Tassel, Hideaki Sakai, Tatsuya Yanagisawa, Keito Yoshida, Hiroshi Oike, Suguru Yoshida, Xiangyu Gu, Kohdai Ishida, Morito Namba, Ksenia Denisova, Valérie Dupray, Simon Clevers, Olivier Mentré, Takuya Nomoto, Terumasa Tadano, Craig M. Brown, Peter Lemmens, Ryotaro Arita,* Hiroshi Takatsu,* and Hiroshi Kageyama* |
| 掲載誌 |
Science Advances |
| DOI | |
| KURENAI |
