ナノ形態を制御して新機能を!

鈴木 基史

鈴木 基史私は、1988 年に工学研究科物理工学専攻を修了後、株式会社豊田中央研究所の研究員を経て、2002 年4 月から現在のマイクロエンジニアリング専攻ナノ物性工学分野の准教授として木村健二教授、中嶋薫助教とともに研究・教育に携わっています。

学生時代には、万波通彦教授と木村助手(当時)にご指導いただき、高速イオンと固体の相互作用に関する研究を少しだけかじらせていただきました。研究の内容はオリジナリティーにあふれ、高度に専門化されておりましたので、既存の装置では実験できません。そこで必要な装置や回路を学生が自作して実験をしていました。今教員側の立場に立ちますと、 私の先生方は大変我慢強く、また暖かく私たち学生を見守っていただいていたことがよくわかりました。これは、専門バカを作らないようにとの、先生方のご配慮だと思います。実際、実験に対する考え方や、機械工作、電気回路の作製を通して修士課程のたった2年間で教わったことは、今でも役に立つ潰しのきく教育であったとありがたく感じます。果たして私は学生諸君に潰しきく教育ができているか分かりませんが、私がもらったものをできる限り若い人たちに引き継いでいくよう努力していきたいと思います。

修士課程を修了後に入社した豊田中央研究所には、出身地に近いことと、学生時代に実験で使っていたものと同じファンデグラーフ加速器が所内にあるからという大変いいかげんな理由で応募しました。学生時代と同じようにイオンビームの研究を続けるつもりでおりましたが、どういうわけか薄膜の研究・開発をする研究室に配属されました。自動車に関わる薄膜ならエレクトロニクスからハードコーティングまで何でも手を出す研究室でしたので、おかげで視野だけは広くなったように思います。1998年には車載用のセンサへの応用を目指した磁性人工格子の巨大磁気抵抗効果に関する研究で京都大学から学位をいただきました。

斜め蒸着法によってナノ形態制御に関する研究を本格的に始めたのもその頃です。真空蒸着によって薄膜を形成する際に、基板を蒸発源に対して大きく傾斜させて配置すると、シャドウイング効果によって数10 nm 〜数100 nm の太さのコラム構造が自然に形成されます。蒸着中に基板の向きを変えてやることで螺旋やジグザグなど様々な3 次元形態の制御が可能です。コラムの太さは可視光の波長よりも十分に小さいので、光に対しては一様な媒質のように振る舞いますが、その応答には薄膜を構成するコラムの形の特徴が強く反映されます。現在世の中で注目されているメタマテリアルの研究のはしりであったともいえます。

ナノ形態を制御して新機能を!私はナノ形態を制御することで発現する機能性の魅力に引かれ、現在もこの研究を続けています。最近は貴金属ナノ粒子の局所プラズモンと光の結合を制御することで、ナノ粒子周辺の局所電場を増強する研究や、ナノ粒子の発熱を利用したデバイスに関する研究に取り組んでいます。また、加熱した基板に金属を斜めに蒸着するだけで、単結晶のナノワイヤが成長するという驚くべき現象も発見しました。今後も斜め蒸着技膜の新しい機能性の追求と、斜め蒸着技術の進化を目指した研究を続けていきたいと思います。

(准教授・マイクロエンジニアリング専攻)