技術部の「物品貸出サービス」について

木下 定

木下 定私は機械系の機械材料設計学研究室で、多くの顕微鏡や分析装置に長年携わってきました。最初に出会った顕微鏡は日本電子㈱製の走査電子顕微鏡JSM-U3で、京都大学では2番目に設置されたと聞いています。当時では優れた機種だったのですが、いろんな所に真空管が使われており、より良い状態で観察しようとすれば、多くのつまみを回して最適な組み合わせの位置を探らなければなりませんでした。非点補正も現在のX-Y 方式ではなく、方向と強度で行う方式で完全に非点補正をしようとすれば時間と集中力が必要でした。加速電圧も、現在では当たり前のようになった低加速電圧での観察は、信号も少なくて空間分解能も望めるものではなかった。走査電子顕微鏡観察では、教員や多くの学生と仄明るい照明の部屋でじっとブラウン管を見詰め、心身ともにミクロの世界へ入り込んでいきました。しかし、長時間の観察ともなれば、暗い部屋と適度な騒音(BGM ?)に追い打ちをかけるようにラスター(残光式CRT の輝線)が上から下へと動くのに瞼も同期して、夜更かしの学生はついコックリとなってしまうこともありました。ある時、学生が小さな試料にカラーペンで印を付けていて、真空チャンバーに入れていざ観察しようとしたら、学生が「カラーじゃないのですか」と言ったのには驚かされました。

その後は、主な顕微鏡だけでも、電界放射型走査顕微鏡(日立製作所HFS-2、S-4500)、超音波顕微鏡(オリンパス光学UH3)、走査型原子間力顕微鏡(セイコー電子工業)、低真空型走査電子顕微鏡(日本電子JSM-540LV)、オージェマイクロプローブ(日本電子JAMP-7810)等、いろんな顕微鏡(分析装置)と共に過ごしてきました。

また、機械材料の環境強度研究で、多くの腐食疲労試験にも勤しんでいました。試験片表面をエメリー紙でピカピカに磨き上げて、残留応力除去のために真空焼鈍を行った後、低応力下での長い実験では何カ月も塩水中での疲労試験を続けて貴重なデータを取得し、得意とするフラクトグラフィでの解析も行いました。僅かながらも研究成果に寄与出来たのではないかと思っています。

最近では、工学研究科技術部に関わることが多くなりました。小委員会の将来計画にはじまり、設計工作技術室の室長、そして技術部副技術長になってしまいました。平成23 年4月からは、桂ものづくり工房に週に半日だけ詰めることとなり、微力ながら桂ものづくり工房を利用される皆様を応援出来るかと思っています。

そんな訳で、この場を借りて技術部の「物品貸出サービス」を紹介させていただきます。

技術部の「物品貸出サービス」について桂ものづくり工房は、平成20 年11 月7日に桂インテックセンター内に開設され、大学院生や学生、そして教職員に簡単な機械加工を主体とした「ものづくりの場」として少なからず活用されてきました。そして、技術部の技術職員による講習会を毎月1回程度(10 日頃に)開催して、多くの皆様に受講していただき、より安全な「ものづくり」をして頂けるような環境作りにも努力をしてきました。利用者数は開設当時より少しずつ増加傾向にありますが、更なる利用者数の増加と利用者の利便性向上を図るために、技術部の新たな提供サービスとして「物品貸出サービス」を、平成23 年5月から開始致しました。

これまで、桂ものづくり工房内では加工出来なかった大きな物、あるいは実験室等から移動できない物の加工要望は有ったのですが、これまで工具の使用は桂ものづくり工房内に限定されていたため、これらのことについては断念せざるを得なかった。

また、桂ものづくり工房の設備は、誰でも頻繁に使うと予想される最大公約数的な工作機械や工具を具備してきました。しかし、新たな「物品貸出サービス」は異なる観点から、研究室単位では年に1回、あるいは数年に1回と使用頻度が低い物品を、それぞれのところで揃えておくのは経済的にもスペース的にも無駄が多い。しかし、これを工学研究科全体の何処か1か所で管理されていて、必要な時に借用出来るシステムが有ればとても有用であり、工学研究科技術部がその役目を果たすことは非常に理に適ったことと考えます。

技術部の「物品貸出サービス」の利用対象者は、桂ものづくり工房機械運転技術講習ライセンス所持者、工学研究科の教職員、工学研究科の院生(研究室配属の4回生は、安全のため講習受講後)となっています。

貸出期間は原則として一日としています。期間の長い実験等に供する日常的な貸出ではなく、装置や設備の変更等を対象とした、一時的な利用での貸し出しサービスを基本に考えています。

貸出可能な物品の詳細(日々状況が変わる)は、「桂ものづくり工房の工具」でインターネット検索をして確認してください。

物品貸出サービスを受けたい場合は、工学研究科技術部のホームページを参照の上、桂ものづくり工房(桂インテックセンター210 室)の常駐担当者(9:30 ~ 17:00 受付)を通して、物品貸出簿に必要事項を記入して貸し出しを受けてください。また、返却時にも常駐担当者立ち会いのもとで返却してください。

物品貸出サービスの利用に際しては、利用者が損害を被った場合であっても、その原因・形態・程度を問わず、工学研究科技術部はいかなる責任も負わないことを了解願います。また、物品貸出サービスの利用者が、故意または重大な過失により、貸出物品を損傷あるいは紛失した場合は、利用者(研究室等)の負担にて弁償をお願いすることもあります。

技術部の「物品貸出サービス」について工学研究科技術部が提供するサービスに、「桂ものづくり工房」、「大判プリンター」、「技術相談」、それに続く工学研究科技術部の第4番目のサービスとして「物品貸出サービス」を位置づけています。

ものづくり工房で加工して作り上げるのも良いですが、ものを分解して先人の知恵を垣間見るのも「ものづくり」の精神に繋がるのではないかと思います。思いついたが吉日、気軽に桂ものづくり工房へお越しください。

(技術専門員 機械理工学専攻)