感じ取る力,考える力

技術専門職員 波多野 直也

波多野技術専門職員

 私は,2004年4月に技術職員として採用され,機械系専攻にて学生実験や実習のお手伝い,研究室の実験装置の設計や加工などのものづくりに携わっています。前職では,民間企業の開発現場で機械設計をしていましたが,京都大学にお世話になるようになってからは,自らが設計することよりも,相談やアドバイスを行うことが多くなり,装置や部品の機械加工の業務が最も多くの時間を占めています。

 機械系専攻では,これらの製作を行うために,フライス盤や旋盤,ボール盤,平面研削盤,マシニングセンタ,ワイヤー放電加工機といった工作機械を保有しており,年間200件ほどの製作依頼と同数以上の学生等の利用があります。私たち技術職員は,これらの製作依頼を請け負うとともに,学生が安全に作業できるようにサポートをしています。加工内容は,板に穴をあけるだけの単純なものから,一つの部品の完成に数日間を要するような複雑形状や高精度を要求されるようなものまで多岐に渡ります。また,材質も一般的なアルミやステンレスといった金属材料から,アクリルやPEEKなどの樹脂材料,セラミックなどさまざまです。

 ここ20年でインターネットやスマートフォンなど情報技術が格段に発達しました。工作機械においても,制御技術や通信スピードの向上,IOT技術の導入などが積極的に行われています。さらに5軸複合加工機や最近では3Dプリンタなども多く使われるようになってきました。これらの技術進歩によって,ものづくりの現場も少し変わってきたように感じます。

 例えば,工程設計です。工程設計はものづくりにおいて最も重要であると,私は考えています。機械加工においての工程設計とは,加工順序,使用工具,把持方法,切削速度,送り速度,切込量など非常に多くのパラメータを決定する必要があります。少し複雑な形状になってくると削る順番を入れ替えるだけで,非常に作るのが難しくなったり,場合によっては製作できなくなることもあります。また,使用する装置の選択によって,製作時間が大幅に変わったり,寸法精度に影響することもあります。

 これらの工程設計においては,自身が得た経験や知識をもとに条件を見つけ出します。最新の工作機械では,一般的な材料や形状を加工する際のデータベースを持っており,製作したい形状や材質のデータを入力すれば製品を作ることができ,また,工具メーカーのホームページを見てみますと,それぞれの工具の推奨加工条件なども簡単に見つけることができます。

 これらを「最適解への近道」と捉えるのであればよいのですが,知識や経験の少ない技術者は,それ自体を「最適解」と捉えてしまう可能性があり,「それなり」の製品が作られてしまうのではないでしょうか?

 ものづくりに限らず,研究活動などにも言えることですが,知識や経験を蓄積していくことが,様々な発想を生む土台になります。世の中の技術進歩により,必要な情報を瞬時にピンポイントに大量に手に入れることができるようになりました。情報を収集するだけで,比較的容易に自分が求めたい解に近づけるような環境になりつつあるように感じます。情報収集のスキルも大切ですが,その先,感じ取り,考え,試行錯誤を繰り返すということを意識して物事に取り組んでいきたいと考えています。

(機械理工学専攻)