コロナ禍に直面して ―工学研究科の取り組み― Vol.2

■立川康人 副研究科長(教育担当)
 感染拡大の第3波が収まらず,1月13日に大阪府,京都府,兵庫県にも再度,緊急事態宣言が出されました。2021年度の前期授業は,対面授業を主体として実施できればよいのですが,状況は不透明であり,オンライン授業も有効に利用することを考えていく必要があると考えます。

 教員アンケート調査によれば,オンライン授業は授業準備に時間はかかるものの8割以上の教員が学習効果を実感しており,工学研究科に所属する教員の7割以上が今後もオンライン授業を利用したいという回答結果でした。学生に対するアンケート調査でも,動画教材によるオンデマンド型授業や同時双方向型とオンデマンド型を組み合わせた授業は,自分のペースで学習できる利点があり学習効果が高いと6割以上の学生が感じているという結果でした。授業アンケート調査(KULIQS)にもオンライン授業の効果を見ることができます。2019年度前期と2020年度前期の調査結果を比較したところ,講義について,特に学部生は「自分自身の学習状況等」,「授業の内容・方法」,「授業全体を通して得られた成果等」,「学習時間」ともに2020年前期のスコアが2019年前期よりも高いという結果でした。一方で,教員と学生との双方向性が重要となる実験・実習・演習では,2020年前期のスコアが2019年前期よりも低い傾向が明瞭に見られました。オンライン授業では双方向性に課題があることは教員アンケート結果にも表れており,学生に対するアンケート結果でも2回生以上は半分程度,特に1回生は7割近くが対面授業を望むという結果でした。

 以上のアンケート結果からコロナ禍収束後の授業形態を考えると,講義は対面授業とオンライン授業を組み合わせたハイブリッド型授業,実験・実習・演習は対面授業とすることが有効です。また4月以降の見通しが立たない現在のコロナ禍に対応することも考慮して,令和3年度の工学部授業実施について,大嶋工学研究科長・工学部長から以下の基本方針が出されました。
✓ 大人数の講義科目はオンライン形式での授業を推奨する。
✓ 実験・実習・演習の科目は対面実施を基本とする。
✓ その他科目は状況によりオンライン実施か対面実施かを判断する。
✓ 1回生配当科目については対面授業を推奨する。

 オンライン実施の授業と対面実施の授業が時間割の中で混在すると,待ち時間や待機場所,移動が困難な場合が発生して不都合が起こります。これを防ぐためには,それぞれの形式の授業を実施する時間帯を固めてブロック化することが有効です。そのため,授業実施の基本方針と合わせて,時間割についても検討依頼が出されました。たとえばオンライン授業の曜日と対面授業の曜日を分ける,オンライン授業を午前中に配置し移動のために3限を空けて午後に対面授業を配置する,あるいはそれらを併用した時間割を組む,などが考えられます。全学共通科目や大学院の講義もありますので時間割変更は容易ではありませんが,見直しのためのまたとない機会です。今の時間割は吉田キャンパスで対面授業を実施する上でもっとも効率的となるように設計されていると思いますが,対面授業とオンライン授業を組み合わせることで,より効果的でかつ効率的な授業体制を構築できる可能性があります。この機会に,各学科・専攻でご検討いただけますとありがたいです。
 なお,オンライン授業については,大学設置基準で設定されている「メディアを利用して行う授業の修得可能単位数の上限」を考慮する必要があります。学部では,卒業に必要な単位数(124単位以上)のうち,メディアを利用して行う授業は60単位までという制限があります。令和2,3年度については特例措置が設けられ,コロナ禍によって対面授業の実施が困難な場合に実施する遠隔授業の単位は,この60単位に算入する必要はないとされていますが,令和4年度以降は制限がかかるものと思われます。オンライン授業を今後どうしていくかは全学的な議論が必要です。コロナ禍以降を見据えてオンライン講義を含めた新たな教育体制を構築する機会となればと思います。


■文榮美智子 吉田第一保健室特定職員(養護教諭)

 熊木美紀江 吉田第二保健室特定職員(養護教諭)
 中谷 和子 桂保健室特定職員(養護教諭)
 対人関係に苦悩し,生活の不安から体調を崩すこともまれではなくなってきた現代。さらには,コロナ禍というこれまで誰も経験したことのない状況の今年度。学生への温かいまなざしと傾聴・観察という2つの態度で学生との関係を構築しています。
〇コロナ禍の学生とオンライン相談 
 前期,本格的にオンライン授業が始まった頃は,狭い部屋で終日過ごしながらも,孤独感や閉塞感を愚痴ったり弱音を吐いたりせず,親には心配をかけたくない,友人には悩んでいる自分の姿を見せたくないと一人で頑張りすぎて,限界を感じて相談に来る学生が多かったです。学生寮で感染におびえて相談に来た学生や,八方塞がりを感じた留学生からの相談もありました。
 自粛生活の中,特に一人暮らしの学生は,人との繋がりが希薄となり,抑うつ状態が悪化傾向にあります。最近では,強迫性障害や社交不安症などの神経症状を呈している学生も多くなっており,専門機関と連携をとりながら支援をおこなっています。4月よりZoomによるオンライン相談を開始していますが,学生のニーズに合わせ,対面とオンラインを効果的に使うことが出来ています。
〇感染学生と濃厚接触者サポート
 京都大学内で新型コロナ感染症罹患者がでたときは,濃厚接触者も含め,個別にサポートを行いました。感染に対する不安,自身の行動に対する自責や後悔の念,大学の対応への不満などを訴える学生の気持ちに寄り添いました。部局にある保健室だからこそできた,迅速且つ丁寧なサポートだったと思います。
〇保健室で行う積極的介入
 養護教諭は,適応上の問題や現実的な悩みを持つ学生を対象とし,その解決や心の比較的浅いレベルの変化をめざし人間的成長を援助します。つまり,包括的且つ入口的な支援を行っています。ときには,メールや電話などを駆使して,積極的に学生に働きかけていくこともあります。例えば,来室を呼び掛けたり,状況把握や励ましのメールを送ったりもします。 
 メンタルヘルスの予防と維持には,睡眠・食事・運動・・・規則正しい生活習慣の維持と,人との繋がりが大事です。逆に言えば,これらが確保できれば,コロナ禍でも,メンタルヘルスは,そう簡単に崩れることはないと思われます。微力ではありますが,私たちの存在が,学生達の健やかなキャンパスライフを送る一助となれば,と願いつつ学生と向き合っています。

学生の皆さんに講演をさせて頂きました
学生の皆さんに講演をさせて頂きました


■野田航多 桂地区(工学研究科)事務部総務課長

 この原稿を執筆している現在(1月初旬),新型コロナウイルスの感染者は過去最高を記録するなど日本国内における新型コロナウイルス感染拡大の状況はますます予断を許さない状況になっている。
 私が所属する総務課では,昨年4月以降,部局対策室の事務担当として感染者,濃厚接触者,またそれらに類する症状発症者(以下,感染者等という)に対する対応支援を大学関係部署並びに保健所等学外関係機関と連携し行ってきた他,各種会議のオンライン開催,在宅勤務・分散勤務・時差出勤を活用したコロナ禍における適切な勤務管理,各種見学・イベント対応など様々な新型コロナウイルスへの対策をその時々の政府,京都府,大学の方針並びに感染状況等を踏まえながら検討を行い実施してきた。また,来訪者に対する京都市新型コロナあんしん追跡サービスの導入など学外者向けの対策も併せて講じてきた。
 とりわけ感染者等への対応は迅速さが必要となり,かつケース毎に異なる対応となることからその判断は非常に難しく,個別の状況に応じた臨機応変な対応が求められる中,新型コロナウィルス感染症の感染を広めないという強い目的意識を持ち対応にあたってきたところである。
 しかし現実的にはクリスマスコンサートや退職教授懇談会を始めとする様々な行事について最後の最後まで実施の方向で準備を進めた末に,開催見送りを判断せざるを得なくなるなど,コロナウイルス感染症による影響はこの一年弱の間でも数えきれないものがあったように思われる。
 そのような状況の中,本年4月には桂キャンパスにエリア連携図書館として京都大学桂図書館が開館したが,予定していた開館記念式典については,政府から緊急事態宣言が発出されるなど状況が深刻化していくことから同月の実施を見合わせ,以降新型コロナウイルス感染症の状況を見守りつつ実施時期・方法等の検討を重ねてきた。その結果,感染対策に十分な配慮を行った上で12月に実施することを決定し,多くの関係者のご協力のもと,同月16日に挙行した。開催にあたっては,スケジュール,参加者を限定するとともに,マスク着用・消毒はもちろんのこと,スピーチ台用飛沫防止パネルの設置,マイク取換え,パネル消毒,控室・施設見学分散等のソーシャルディスタンスなど徹底した感染対策を講じ,新旧総長・理事等大学執行部のほか,文部科学省,京都府,京都市からのご来賓の方々をお迎えし,同式典を無事終えることができた。度重なる打合せやリハーサルなど準備に多くの時間を費していただいた関係者の皆様方に改めてお礼申し上げたい。
 
 なお,最近の状況としては新型コロナウイルスの変異種が発見されている他,PCR検査でもこれまでは主に濃厚接触者から陽性反応がでていたのが,濃厚接触者以外からも陽性反応が増えてきているそうだ。これは市中感染が広まってきていることを意味しており,これまでの濃厚接触者が確認された場合の対応策だけでは追いつかなくなってきている。さらに東京都と3県に2度目の緊急事態宣言が発令,追って大阪・京都・兵庫の3県も政府に緊急事態宣言発令を要請しており,今後も更に変化し続けるであろう新型コロナウイルスに対してこれまで取り組んできた経験を生かしつつ,更なる感染防止対策に取り組んでいきたい。この記事を皆様が目にされる頃には新規感染者が減少していることを期待して。