下水再利用による水循環型社会の構築を目指して

助教 竹内悠

竹内先生 都市環境工学専攻・環境質予見分野の助教として,下水再利用に関わる処理技術の開発と,水環境工学分野の教育活動に携わっています。
 現在の都市部における上下水道システムは,大量輸送・大量消費を前提とした「一過型」かつ「集約型」の上下水道システムで構築されています。しかし,世界各地で発生する水不足,災害による断水被害の増加,新興汚染物質による水環境汚染,上下水道施設の老朽化など,従来の上下水道システムには近年多くの綻びが生じています。安全で良質な水を確保し,健全な水環境を維持していくためには,「下水再利用システム」を基盤要素とした新たな上下水道システムの構築が必要です。下水を高度処理することで質的に改善した下水再生水は,適切な利用用途には有望な代替水資源となります。また,水をカスケード利用することで,河川などの水環境からの取水量と水環境への排水量は少なくなり,水環境の流量低下を抑えつつ,質的改善も一層進むことから,水道や水生生物が利用する水の安全性も高まります。また,水を遠隔地まで輸送する従来の水供給システムと比べると,下水再利用はエネルギー的にも有利となる地域が世界的には多くあります。さらには,下水の高度処理は施設の小型化・分散化が可能です。そのため,集約型の水インフラが未整備の地域や災害などの緊急時でも給排水可能な自立分散型の水インフラの構築が期待されます。
 一方,農薬,医薬品類,有機フッ素化合物,消毒副生成物,病原ウイルス,薬剤耐性菌,薬剤耐性遺伝子など,都市下水中には多種多様な汚染物質が存在します。そのため,安心安全な下水再利用には,これらを効率的に除去し,リスク制御できる処理技術の活用が重要です。膜処理や促進酸化処理といった高度処理は,水中の汚染物質をその物理化学的特性に応じて効率的に分解・除去できるため,良質な水が求められる下水再利用システムに欠かせない技術となりえます。現在は膜処理での除去率が大きく変動する微量化学物質を中心に,膜処理での除去特性の解明を進めています。高度処理での汚染物質の除去性に寄与する制御因子を明らかにし,除去機構の深い理解に基づいたリスク制御手法を提示できれば,下水再利用の安全性と信頼性を大幅に向上できると考えています。
 膜処理や促進酸化処理の課題として,エネルギー消費量と運転コストが高いことが挙げられます。そこで,エネルギー・コストの削減には,材料工学分野で開発が進むナノマテリアルの導入が効果的ではないかと考えています。カーボンナノチューブ,グラフェン,光触媒といったナノマテリアルは,高い親水性と電子伝達性を有することから,膜の透水性や促進酸化処理における酸化剤の生成量を飛躍的に向上させられる可能性があります。中でも,光触媒は紫外光や可視光に応答して酸化剤を生成する触媒材料であり,水処理に応用できれば光照射するだけで水中の汚染物質を分解・除去できる,“安価”で“分散型”の下水再利用システムの実現につながると期待しています。都市下水に対して最高の性能を発揮するナノマテリアルを選択し,処理プロセスの設計指針と運転制御手法を提示することで,下水再利用の経済性と分散性を向上させ,都市の新たな水代謝システムの構築に貢献したいと考えています。「桂産直便」にてご紹介いただきましたので,そちらもご参照いただけますと幸いです。

(都市環境工学専攻)

参照:「桂産直便」(「桂の庭」webサイト内)
https://seeds.t.kyoto-u.ac.jp/seeds/takeuchi
QR_若手教員(地球工学科)