博士後期課程の5年間 ー八代、桂、小豆島をたどってー

大須賀嵩幸

 京都大学には学部の4年,修士課程の2年,博士後期課程の5年,合計で11年間在籍しました。大学院で7年間お世話になった平田晃久教授の研究室は,私が大学院に進学した2016年に発足したばかりの研究室で,私は初めての博士後期課程の学生でした。この場をお借りして,博士後期課程の5年間を振り返ってみようと思います。
 進学当初は,修士論文で思うような成果が出せなかったことを引き摺り,博士の研究テーマに納得がいかず行き詰まってしまいました。転機になったのは,平田教授が設計する「八代市民俗伝統芸能伝承館」(熊本県八代市,2021)の設計ワークショップに参加させてもらったことでした。お祭りの伝承館であるこの建築のワークショップは,お祭りや伝統芸能を受け継いできた人たちが各々の立場を背負って発言し,それらが対立しあうかのような状況から始まりました。けれども,それぞれの主張に真摯に向き合いながら設計案を調整していく中で,最終的にはどの人も納得する形で設計がまとまっていったのです。この体験がきっかけとなり,「多くの人々の思考が入り込むことで,建築はよりよくなるだろうか」という研究テーマを持つことができました。
 博士課程の2年目から3年目にかけては,当時の工学研究科長の大嶋正裕先生にお声がけいただき,有志メンバーで「桂キャンパス図書館横広場」(京都府京都市,2021)の整備に取り組みました。私たちは食堂に6つの建築案を展示して,キャンパス利用者から多くの反響をいただきました。実現した広場はおおらかに場所をわける地形の操作がメインとなりましたが,いただいた桂キャンパスの皆さんの声を参考に,広場での活動の手がかりとなるようなバスケットゴールや家具,カラフルな円弧などをちりばめていきました。広場の工事中にコロナ禍になってしまいましたが,かえって屋外でのアクティビティを楽しむ人が増え,京大の学生はもちろん,ニュータウンの子どもたちまでもが広場を使ってくれるようになりました。
 このほかにも研究室では設計・研究の両面で多くの貴重な経験をさせていただいたのですが,4年目の半ばに縁のある企業からお声がけいただき,研究室を離れて小豆島で空き家の改修プロジェクトに参加することになりました。1年間島に移り住んで改修や展示企画に取り組みましたが,小豆島では顔の見える大きさのコミュニティの中で地元の人や移住者が交流しているさまが印象的でした。ここでなら,建築をとおして身の回りの環境や身近な人たちの暮らしを本当に変えていけると思い,大学での設計や研究で考えてきたことをプリミティブに実践すべく,大学を卒業後も小豆島で空き家のプロジェクトに取り組もうと思っています。
 思い返せば,多くの人に助けられながら,少しずつ歩ませてもらった博士課程の5年間でした。とりわけ,足踏みや寄り道ばかりの私に多大なご指導をいただいた平田教授にお礼を申し上げるとともに,いただいたご恩を少しでもお返しできるよう,いっそう精進していこうと思います。

(建築学専攻 2023年3月博士後期課程研究指導認定退学)

桂キャンパス図書館横広場
桂キャンパス図書館横広場

小豆島では工事中の空き家に暮らした(筆者)
小豆島では工事中の空き家に暮らした(筆者)