吉野 彰博士ノーベル化学賞受賞展示除幕式および記念講演会

施設部プロパティ運用課 共用施設マネジメントセンター長 牛田俊夫

 桂キャンパスBクラスターにある船井哲良記念講堂1階のロビー北側壁には展示コーナー「ノーベル賞・フィールズ賞受賞者―若き日の記録―」を常設しております。この展示は,2007年度の総長裁量経費の支援を受けて設置したもので,本学ゆかりのノーベル賞・フィールズ賞受賞者のメダルや賞状の写真,論文や研究ノートの複製品展示を受賞者や関係者の協力を得て行って来ました。
 この度,13人目の受賞展示として2019年ノーベル化学賞を受賞された吉野彰博士のブースが完成し,除幕式及び記念講演会を2022年11月16日に開催しました。除幕式は坂本亜紀子総務部総務課長の司会により,展示ブース前に吉野博士と本学から,村上 章 理事・副学長,北村 隆行 理事・副学長,船井哲郎記念講堂管理責任者である椹木 哲夫 工学研究科長の4名によるテープカットを行った後,記念撮影には吉野博士の受賞展示を推進された当時の管理責任者で前工学研究科長の大嶋正裕教授,受賞時に本学から研究内容の説明にご尽力された工学研究科物質エネルギー化学専攻の安部武志教授,吉野博士への連絡調整役の旭化成(株)研究・開発本部知的財産部知財業務グループ長の寺田博憲氏にも加わっていただきました。 
 記念講演は「リチウムイオン電池が拓く未来社会」と題して,108名の出席者に対して大変わかりやすくお話しいただきました。冒頭の受賞の背景として学生時代について,京都大学入学後の教養課程の2年間は先輩方から「専門以外のことも身に着けるとよい」とのサジェスチョンを受け,考古学研究会に所属して会場からもほど近い樫原廃寺の発掘調査を継続して取り組み,調査報告書が自身の最初の公的文献として残りました。その後の工学部3,4回生,工学研究科修士時代は専門のケミストリーを一生懸命学んだとお話をされました。
 続いてリチウムイオン電池のお話では,旭化成入社後の1981年に四番目の研究テーマとして白川秀樹博士が発見されたポリアセチレンの材料研究をスタートさせ,電池とは関係ないテーマではありましたが,ポリアセチレンが新型二次電池の負極として使えることが分かり,これがリチウムイオン電池の開発につながり,更にリチウムイオン電池の定義とルーツ及びノーベル化学賞受賞理由を説明されました。また,このような成果につながるには産業界が求める大学アカデミアのミッションとして,真理の探究に近い基礎研究と一つのシーズを生み出す応用研究の両輪が重要であり,インターバルも長くかかると話されました。
 その後,未来社会の具体的イメージとして二つの動画が放映されました。一つ目の動画は子供の目から見る未来社会では,2050年の車はAIEV,テレワーク,遠隔医療も進み,ドローンが荷物を運ぶ時代がやって来て,未来では移動しないとできないことは殆どなくなり,自分がしたい移動のみをするようになっているものでした。二つ目の動画はCASEが象徴する未来の車社会では,2030年にはAIEVが社会全体を共有する形で普及が進むというものです。このAIEVは充電放電がシンプルになっており,発電量にバラツキのある再生可能エネルギーのデメリットを補完でき,社会全体に張り巡らされた蓄電インフラとなり,電力売買の経済効果や資源使用を抑え,エネルギーの無駄を無くし環境にも優しくコストメリットも生み出せるというものです。このようなET革命により,快適な暮らしを,我慢や節約もなく無意識に送れる時代がやってくる,そんな議論がされています。
 最後にカーボンニュートラル全体の動きについて,日本政府が進めている,2050年にはCO₂排出を0にするというグリーンイノベーション基金事業の紹介があり,カーボンニュートラル社会実現に向けた再エネ電力を最大限どこまで普及できるか,再エネキャリア,大気中のCO₂の固定化など具体的な方法等が検討されており,近々本命が絞りこまれるであろうことを説明されました。そこには古典的なケミストリーのバージョンアップが求められており,学問としてケミストリーが果たす役割が極めて重要とのことです。つまり,最新の技術は必要としておらず,100年前に遡って,今必要となる技術を見出すための研究が必要ですので,熱力学の3法則がカーボンニュートラル社会に向けての道しるべとなります。熱力学の3法則を現代版に解釈しなおして出来ることを探求していくべきで,もし出来ない場合は法則に反していることになります,と講演を締め括られました。
 講演後の質疑時間には,参加者からの質問に丁寧にお答えいただき,記念講演会は盛況のうちに終了となりました。
 吉野博士におかれましては大変お忙しいところ,母校からの講演依頼ということで快くお引き受けくださり誠にありがとうございました。また,今回の式典開催にご協力いただきました全ての方々に対しまして心から厚く御礼申し上げます。

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