学部長挨拶

京都大学工学部へようこそ。工学は理学の基礎の上に成り立ち、自然界にないものを創造し、新たな科学の種を生み出す学問です。1897年の創設以来、社会の変遷とともに進化を続け、現在は6学科体制で複合的な課題解決に取り組んでいます。現代の工学には、分野を超えた「共創」による新しい社会のデザインが求められます。「自由の学風」のもと、確かな基礎力と広い視野を培い、未知の世界へ挑戦する皆さんを歓迎します。
「工学(Engineering)」という学問は、高等学校までに勉強する「理科(Science)」の科目には存在しないため、工学部以外の学生や、あるいは工学部に入学したばかりの1・2回生の皆さんにも、少し馴染みが薄いかもしれません。理学が「自然界の原理そのものの理解」を主眼とするならば、工学は科学的原理を応用して「自然界にないもの」を生み出し、人類の幸福や社会課題の解決に資する実践的な目的のために発展してきました。自動車や飛行機などの機械、橋や高層ビルなどの構造物、スマートフォンに代表される電子機器、そして様々な新素材の開発などがその代表例です。ここで重要なのは、工学が「科学的原理に立脚する学問」であるという点です。そのため工学部の学生は、1・2回生において、数学・物理学・化学をはじめとする科学技術の基盤、すなわち理学の基礎を徹底して学びます。その上で各学科の専門科目を修め、最終学年では、世界の最先端の研究・開発に自ら取り組むことになります。そこには、世界で誰も思いつかなかった新しいモノや仕組みの発明、あるいは誰も知らなかった新しい現象の発見が待っているかもしれません。工学は、応用のみならず、新たな科学的原理の種を生み出す学問でもあるのです。
大学における工学は、19世紀の後半に始まる比較的新しい学問領域です。京都大学工学部の歴史は、1897年(明治30年)の本学開学時に理工科大学へ設置された土木工学科と機械工学科、そして翌年に設置された電気工学科、採鉱冶金学科、製造化学科に遡ります。その後、産業の多様化に伴い、新たな社会的課題や技術領域が生まれるたびに学科が増設され、一時期には20を超える学科が並立していました。しかし、現代社会が抱える課題は複合的かつ急速に変化しており、狭い専門分野の知識だけでは解決が困難になっています。そこで、本学部はおよそ30年前に、細分化された知を再び統合し、俯瞰的な視点を持つ体制へと移行しました。現在は、地球工学科・建築学科・物理工学科・電気電子工学科・情報学科、そして2024年に基礎と応用の連携をより明確に示すべく名称を新たにした理工化学科という包括的な「6学科」体制で教育研究を行っています。さらに近年、これらの学科と密接に関わる大学院においても、時代の要請に応えるべく複数の専攻にわたる大規模な組織改革が進んでいます。工学部は今、伝統を継承しつつも、自らを大胆に変革する進化の時を迎えています。
これまでの工学の使命は「モノづくり」に主眼が置かれていましたが、これからの工学にはそれを進化させ、科学技術を通じて新しい社会をデザインし、創り出すことに貢献することが求められています。たとえば、SDGsやSociety 5.0で取り上げられている地球温暖化、エネルギー、食糧、水、健康、サイバー空間の安全といった社会課題は、もはや単一の便利な道具を作るだけでは解決できず、単一の学科で学ぶ学問だけでも解決できません。これからの工学研究者や技術者は、学科や学部の垣根を超え、幅広い分野の人や組織との共創によって社会課題に向き合う必要があります。
このウェブサイトでは、そのような工学部や各学科の沿革、理念、教育、イベント情報などの最新情報を紹介しています。現在、工学部に所属している1・2回生の皆さんは、早い段階で上回生になってから履修する専門科目のシラバスを確認することを勧めます。多くの専門科目が、数学、物理学、化学などの基礎知識を前提としていることに気づけば、現在の基礎科目を学ぶモチベーションにつながるはずです。また、コース分属や研究室配属を控えた皆さんは、自分の学科に所属する研究室の情報を閲覧し、将来の研究に夢を馳せてください。その際、志望する研究室だけでなく、幅広い分野の研究室にも目を通し、自分の目指す研究室の立ち位置を知ることも大切です。できることなら、自分の学科以外でどのような研究が行われているかを知ることで、いっそう広い視野を持つことができるでしょう。
京都大学工学部への進学を考えている皆さんは、「入学案内」メニュー内の「工学部で学びたい方」にある情報をぜひご覧ください。学校で学んでいる数学や理科の知識を実際に使い、楽しく情熱をもって研究している教員や先輩の姿を垣間見ることができるでしょう。そこには、性別や国籍を問わず、多様な背景を持つ人々が、共通の「知への好奇心」で結ばれ、切磋琢磨する姿があります。
京都大学はよく「自由の学風」といわれます。その真髄は、自らの信念に基づいて自由に研究テーマを選択し、探求できることにあります。京都大学工学部が自らを変え続けられているのも、この自由があってこそです。現在工学部で学ぶ皆さんも、これから工学部を目指す皆さんも、この自由と規律ある環境の中で、柔らかな発想と若いエネルギーを存分に発揮し、新しい社会の発展に貢献してくれることを心から願っています。
