研究科長あいさつ

立川先生顔写真

 科学的知見をもとに我々の生活の利便性を高める技術を追求し、実社会に活用して安全で健康な質の高い社会を構築することが工学の目的です。工学に関する研究は、構造物や機械、エレクトロニクス、新物質・先端材料などの「ものづくり」はもとより、地球環境の保全と創造、再生可能エネルギーやクリーンエネルギーの生成、超スマート社会を支える情報技術の開発など、我々の生活に関連する数多くの分野を含みます。これらの技術開発を通して持続可能な社会の実現に貢献する学術が工学です。

 工学は、目の前の課題に対処し、地球社会に役立つ技術開発を目的とします。工学は応用を目的とする実学です。同時にその技術開発を支える科学研究、つまり基礎研究を進めることによって、これまで誰も考えつかなかったブレークスルーを生み出すことができます。京都大学の工学は、物質の性質や運動に関する自然の原理を理解しそれを説明する理論を展開する基礎研究を重視しています。京都大学の工学研究科・工学部は、工学を「人類の生活に直接・間接に関与する学術分野を担うもの」とし、「地球社会の永続的な発展と文化の創造に対して大きな責任を負っている」こと、この認識のもとで「学問の基礎や原理を重視して自然環境と調和のとれた科学技術の発展を図るとともに、高度の専門能力と高い倫理性、ならびに豊かな教養と個性を兼ね備えた人材を育成する」ことを理念として掲げています。基礎研究と応用研究の両方を重視し、これまで誰も考えつかなかった「ものづくり」を実現する科学技術、そして持続可能な地球社会を実現する科学技術を創出することが京都大学大学院工学研究科の目指すところです。

 大学院では一つのテーマについて深く学び研究し、極めることが求められます。研究活動を進めるにあたって、これまでのその分野の研究の流れを理解して体系化し、その中で自己の研究の立ち位置を的確に認識することが必要です。それに加えて博士後期課程では、他分野で行われている研究や社会の様々な課題と自己の研究との関連にも関心を持ち、視野を広げることが大事です。自己の研究を他分野で応用する可能性はないか、自己の研究を社会における様々な課題解決にどのように活用できるのかなどを考えることによって、研究ネットワークが広がり、取り組んでいる研究が当初想像もしなかったような新たな展開につながる可能性があります。

 令和5年度より京都大学大学院工学研究科に次世代学際院(Interdisciplinary Research Institute for the Next Generation, iRING)が発足しました。次世代学際院は、「新たな総合知の修得と実践によって組織の壁を越えて協働できる研究者を育成することを目的としています。そこは、若手研究者が、他分野・異分野との「知の互換性」を考え、「個別の専門性を他領域に展開して行くことのできる能力を涵養」する場です。次世代学際院のセミナーが、若手研究者や博士後期課程で学ぶ大学院生の皆さんの研究の視野を広げ研究展開に活かす場となることを期待しています。

 現在、本研究科は、17専攻、8センターで構成されています。大学院生は各専攻やセンター、附置研究所の協力講座の研究室に配属され、教員の指導のもとで特定の研究課題に取り組みます。その中で大学院生は専門的な知識を学修し、研究を企画・推進する能力や研究成果をわかりやすく論理的に説明する能力、自ら課題を発見し解決する能力を培っていくことになります。学術研究における高い倫理性や責任感を身につけることも必要です。また、自己の研究の位置づけを明確にし、その成果と意義を国内外の様々な場所で議論する能力を獲得することも求められます。工学研究科では、皆さんがそれらの能力を獲得するために様々な研究設備や学修環境を整えています。また、海外の学会に参加して発表する機会や海外の研究機関で学ぶ機会を得るための助成も行っています。京都大学桂図書館では、グループ学習室やオープンラボ、リサーチコモンズを整備し、グループワークや研究討議ができる環境を提供しています。

 各専攻やセンターのウェブサイト、工学研究科案内では、それぞれの専攻が目指すところや研究室の研究内容を詳しく紹介しています。桂図書館が提供するホームページ「桂の庭~研究シーズ・カタログ」では、工学研究科の研究室で行われている「桂のタネ(研究シーズ)」をわかりやすく紹介しています。これらが、工学研究科で実施されている多様な研究内容を知るための手引きとなれば幸いです。大学院で学ぶ皆さんは、これらを参照して自ら研究課題を設定するための一助として下さい。

 大学院での研究は、新しいことへの挑戦です。これまでの研究の蓄積をもとに、自ら研究課題を見出し、それぞれ課題の解決に挑むことになります。時には困難にぶつかるでしょう。その困難の解決を目指して自ら努力してください。そして、大学の教員や同じように努力している仲間と議論してください。必ず道が開けるはずです。大学院はそのプロセスを通して自己を磨く場です。その努力は皆さんの未来を開きます。皆さんの輝きがより一層増しますよう、我々も一緒に走っていきたいと思います。