研究科長挨拶

京都大学工学研究科は、令和8年度(2026年度)の大規模な専攻改編を契機に、11専攻と教育研究センター群からなる新体制のもと、学際融合を一層推進します。基礎科学を重んじる伝統を基盤に、サイエンスとテクノロジーの融合を軸とする「テクノサイエンス」と産学連携を通じて、複雑な社会課題の解決に取り組みます。学生・若手研究者には統合知の獲得を期待し、産業界の皆様とは持続可能な未来を共創するパートナーとして連携を深めてまいります。
工学は科学的原理を応用して「自然界にないもの」を生み出し、人類の幸福や社会課題の解決に資する実践的な目的のために発展してきました。特に京都大学工学部・工学研究科は、本学の開学時から一貫してこの「科学の基礎」を重要視して教育・研究に取り組んできました。その結果、様々な機械、構造物、電子機器、新素材の開発にとどまらず、ノーベル賞につながるような科学の発展にも大きく貢献してきました。
工学はその性格上、産業の多様化に伴って新たな社会的課題が生まれるたび、新しい学問分野を必要とします。本研究科でも専攻の増設を重ね、長らく17専攻体制で多様な専門領域を深化させてきました。そして近年の要請に応えるべく、令和8年度(2026年度)より電気系2専攻を統合した「電気電子デジタル理工学専攻」と、化学系専攻を再編した「化学理工学専攻」が新たに発足しました。これにより本研究科は、11専攻と10を数える教育研究センター群からなる新たな姿へと進化しました。
「電気電子デジタル理工学専攻」では、デジタル分野をけん引する高度人材の育成を掲げ、新設の「デジタル・グリーン領域」で電気・電子・情報が融合した学際領域を開拓します。一方「化学理工学専攻」は、従来の化学系6専攻(材料化学、物質エネルギー化学、分子工学、高分子化学、合成・生物化学、化学工学の各専攻)を統合し、総勢1,000名を超える世界最大級の化学系専攻となりました。基盤的な教育組織で専門知を深化させ、機動的な研究組織で学際知を涵養します。これら新専攻の誕生は新たな学術の鼓動であり、地球工学系専攻、建築学専攻、物理工学系専攻などの他のすべての専攻との間にも、未知なる学際的融合の波を生み出していくことでしょう。
これに先立ち、令和7年度(2025年度)に新設された「附属光量子センシング教育研究センター」は、工学の学際的連携を体現する組織です。理学研究科や医学研究科、学内各附置研究所等と緊密に連携するとともに、量子技術イノベーション拠点(QIH)などの学外機関とも協働し、光量子センシングにおける学術の深化と社会実装、人材育成の世界的な拠点を目指しています。工学研究科は今、伝統を継承しつつも自らを大胆に変革する進化の時を迎えています。
こうした最新の取り組みに加え、本研究科では以前から多様な教育・研究の場を提供しています。大学院生は各研究室で世界最先端の研究に取り組みながら研究遂行能力を養い、学会発表等を通じて異分野の研究者と交流します。加えて、分野横断型の教育プログラムや工学基盤教育研究センターが提供する工学共通型授業科目を通じ、プロジェクトマネジメントの実践的演習や科学英語教育など、多角的な学習機会を得ることが可能です。
「附属桂インテックセンター」には専攻の枠を越えた研究部門が設置され、活発な学際的研究が展開されています。さらに令和5年度(2023年度)には、統合知の修得と実践を基盤とする「工学研究科次世代学際院」が設置されました。現在40名近い若手研究者が所属して主導的なセミナーを活発に開催しており、専攻を超えた若手同士の学際研究が共著論文として出版されるなど、異分野交流が着実に進んでいます。
21世紀に入り、科学と技術の境界線はさらに曖昧化し、「テクノサイエンス」という新たな概念枠組みが必要とされています。これは開学以来基礎科学を重んじてきた本研究科の普遍的理念と深く共鳴し、私たちが目指す未来の姿を体現する言葉です。京都大学工学研究科では、令和2年度(2020年度)に開館した桂図書館とキャンパスそのものを中核プラットフォームとし、「サイエンスとテクノロジーの融合」という桂キャンパスの理念の現実化を進めています。産学連携や社会実装に向けた最新研究の展示、実証実験を通じた事業化イメージの発信などを、「テクノサイエンスヒル桂構想」として強力に推進しています。
学生や若手研究者の皆さんには、幅広い視野で統合知を獲得しつつ自らの研究を深く掘り下げ、未来の新しい工学をこの京都大学から発信していただきたいと願っています。また、産業界の皆様におかれましては、本研究科の新たな教育・研究体制や「テクノサイエンスヒル桂構想」にご注目いただき、社会課題の解決とイノベーション創出に向けた強力なパートナーとして、より一層の産学連携と共創の歩みを進めていただけますと幸いです。本研究科への引き続きのご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
