私の役割

技術専門職員 植田義人

技術職員植田様 早いもので京都大学の技術職員として採用されてから15年が経ちました。現在,工業化学科3回生の学生実験(主に創成化学コース)の支援と高分子化学専攻共通NMRの維持管理を担当しています。
 以前は環境分析系の民間企業で働いていたのですが,当時,大学の仕事や大学の技術職員がどのようなものかも分からず興味の赴くままに採用試験を受け,たまたまご縁があり,工学研究科の技術職員として採用して頂きました。今となれば募集要項に何が書かれていたかははっきりと覚えていませんが,主に化学系の学生実験に関する仕事をするということだけは認識していました。前職の経験から化学や分析といった分野に馴染みはあったものの,元々化学を専門として学んだわけではなかったので,必要な知識は働きながら習得していきました。そんな新人だった頃,学生実験で取り扱う装置に詳しい方がおられるとのことで,大阪大学大学院理学研究科技術部を訪ね色々と教えて頂く機会がありました。装置について学んだ1日の最後に,何気ない会話の流れで『“技術”って何やと思う?』という質問が投げかけられました。恥ずかしながら技術職員というものに確固たる信念があったわけではなく,技術という言葉の意味についても深く考えたことがなかったので,当時の私は返答に詰まりました。的を射た答えが出ない私に,ご自身が設計された測定装置用の試料ホルダを紹介してくれました。それは,ちょっとした工夫を施すことで試料セットの煩わしさを解消したもので,その説明に加えて『技術とは工夫することなんや』と教えて下さいました。時を経て,“何か問題に直面した時にあらゆる情報・知識・経験・道具等様々なものを駆使して工夫を凝らすことで何らかの解決方法を見出していくのが技術”で,“それを担うのが技術職員”なのだと,自分なりに解釈しています。
 学生実験においては定常的な業務が主なものになりますが,時代の変遷と共に大なり小なり様々な問題に直面します。これらの中には実験室の使い方や全体の状況を良く知っていないと最適な解決策が出せないようなものもあります。私の場合,全ての実験分野の状況を把握出来る立ち位置にいるので,こういった全体への対応も期待されているように思います。自分の立ち位置で出来る事と自分なりの“工夫”を通して,関係先生方には実験を実施しやすい環境を,受講する学生さんにとってはより安全で教育効果がある実験を提供できるよう取り組んでいきたいと思います。

 さて,話は少し逸れますが“工夫”とは何かを考えるのに私が実際に直面した問題を一つご紹介したいと思います。
『容易には逆さに出来ない金属製の容器が在ります。容器内外を繋ぐ出入り口は上部に垂直方向に1ヶ所のみ。この出入り口にはネジが切ってあり,このネジ山が潰れてしまった為にネジを切り直したいとします。容器内に切りくずを落とさずにネジを切るにはどうしたら良いでしょうか?』
 取り組む人の経験,知識,思考の柔軟性等によって答えは様々かと思います。皆さんはどんな解決策を思いつきましたか?

(化学電気系グループ)

容器