建築+土木+ランドスケープ

助教 岩瀨諒子

 

 

岩瀬先生 朝,自宅を出て駅に向かうまでの道のりだけでも,お隣さんとの敷地を隔てる隣地境界,道路との境界を示す道路境界,公園や橋梁,駅舎など。敷地にまつわるものだけでも,私たちのまわりには無数の見えない境界や異なる管理区分が存在している。
 
 学生時代に建築設計を学びながら「敷地内の建物の設計だけでなく,その外にも広がっている経験も含めたひとつづきの経験をデザインしたい」と都市系の土木インフラや景観分野のデザインに関する知見を広げた。2011年に本学を修了して以来現在に至るまで,建築やインテリアのデザインにおける実践から,護岸や公園,道路,パブリックスペース等の土木デザインの実践までを横断的な思考で設計を行っている。

小さなドボク
 たとえば,筆者が設計に携わり2017年に竣工した《トコトコダンダン2017》は大阪の市街地を流れる木津川沿いの堤防のデザインである。水害からまちや人の暮らしを守ることが至上命題である堤防に対してデザインという言葉は不釣り合いのように聞こえるかもしれないが,ここでは,「防災施設としての堤防」と「人の居場所としての水辺」が両立するランドスケープデザインとして,垂直型のカミソリ堤防垂直護岸の断面に階段状の構造物やスロープ状の盛土のデザインを描き加えることで,水とまちを面的につなぐやわらかな境界をつくった。
 こうした操作を加えることによって,人々が都市インフラに触れ,腰をかけたり,そこにある緑を育てることで環境をかえたり,高潮位の日には敷地内に水が浸入することで今まで認識ができなかった川の水位が可視化されることになるなど,大きなドボクが小さく感じられるような体験づくりを目指した。

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ドボクのインテリア
  土木技術をインテリアデザインへ応用したこともある。RC造のマンションの一室をシェアアトリエに改修するプロジェクト《ドボクノヘヤ2013》では,吊り橋などに使われるストランドロープという材料特性を生かして家具の構造として用いた。RC躯体にケミカルアンカーを打ちロープに張力をかけて天板を支えるため,脚のない家具となるのだが,この小さな一室での実践は(最大ロープ長さが7.5m程度ではあった)脚のない巨大な家具や床たちが空中に浮かぶような不思議な風景も,このシステムを使えば比較的自由度高くつくることもできると考えている。

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  そのほか,アスファルト舗装の道路の表面が,補修工事の繰り返しによって色の違うパッチワーク状になっている現状に着目して,事前にこうした変化を取り込めるような分割デザインを施しておくことで,時間の経過とともにアスファルトの色違いが模様としてポジティブに変化していくことを考えた街路のデザインや,路面電車の終着駅のデザインとして,利用者数が少なく,電車の運行本数の少ない一部線路を廃線し,庭のような空間を挿入することで,プラットホームで電車を待つことが楽しくなるような空間の創造や,街に対して緑豊かで開かれた駅舎の計画とする提案など,領域にとらわれない設計活動を行っている。

 (建築学専攻)

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