これまでの時間を振り返って

助教 初鳥匡成

初鳥先生.png 大学入学以前,放課後の時間(小:遊ぶ,中高:部活)を別にすると,時間割表の「算」「数」の文字はなんとなく楽しみに過ごしていました。高校で物理も面白いなと感じ,将来は航空宇宙関係に進みたいのと同時に学問に触れてみたいという気持ちで本学の物理工学科宇宙基礎工学コースを希望しました。入学後,専門科目はかっちりした板書の授業が主で,その中でも流体力学に興味を惹かれました。さて,私は3回生の頃までなぜか「ケンキュウシツでは研究は先生がしていて,学生は何かケンキュウっぽいゴッコだけして卒業するのかな」と変な(?)思い込みをしていました。見学に行くと,ある先生は「今学生の〇〇くんとこんなことをやっていて…」,またある先生は「学問したかったらおいで」と懐の深い雰囲気で親身に話をして下さいました。それがきっかけで私の上記の思い込みは氷解し,だったら面白そうと大学院に進むことにしたのが懐かしいです。
 研究室に配属後は,分子気体力学に関する研究に取り組みました。ふつう,身のまわりの気体の現象は,流体力学でよく記述されますが,航空宇宙工学で重要な低圧気体やマイクロ・ナノ工学で現れる微小な系の気体では気体が分子の集団からなるという微視的立場にたつ分子気体力学による記述が必要になります。分子の速度の分だけ自由度が増えるために,その基礎方程式を解くのは比較的単純な対象でも大変なことが多いです。しかし,幸いにして,低圧化や微小化の度合いが軽度な場合,気体の振舞いは通常の巨視的な流体力学の方程式と境界条件を適切に補正すれば調べられます(すべり流の理論)。私が指導教員の先生から頂いたお題は,定常な状況を主として確立されていたその枠組みを,非定常な状況(具体的には気体の粘性が支配的な拡散的状況で流れが低速な場合)へ拡張することでした。すべりとは低圧・微小な状況で顕在化する物体面での気体と物体の速度の差異をさしますが,どの程度すべるかの定量的情報を得るには分子気体力学の基礎方程式の所定の境界値問題の分析が必要で,学生時代の後半はそれに関する数値解析に取り組みました。

 2016年に学位を取得後は,三菱電機株式会社に1年半勤務し,その後航空宇宙工学専攻にて助教を務めています。学生時代の非定常系という観点で,今度は拡散よりも慣性が効くような波の現象に関する分子気体力学的研究をまず行ってきました。その後は実在気体効果が現れるような高圧・微小な系(たとえばシェールガスのような対象)に関する研究に取り組んでいます。分子気体力学(あるいは運動論)の特徴・面白さの一つは,この枠組みの素朴さにも起因して気体にとどまらない多様な対象(粉体流,フォノンによる固体熱伝導,半導体内の電子伝導,etc.)をカバーしている点にあると感じています。この点も味わいながら,流体力学・工学の分野へ貢献ができるよう研鑽に励んでいく所存です。皆様にはどうかご指導のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

(航空宇宙工学専攻)