日々世界へ挑戦

ウエスタンデジタル合同会社 中塚滋

卒業生中塚様.png 私は2012年に京都大学工学部物理工学科を卒業後,同大学の大学院工学研究科材料工学専攻に進学し,修士課程を2014年,博士後期課程を2017年に修了しました。学部・大学院では,新規太陽電池材料であるカルコパイライト型化合物ZnSnP₂の基礎研究および太陽電池デバイスへの応用研究に取り組みました。学部時代からエネルギー問題に関心がありこのテーマを選んだのですが,新規材料であるが由に結晶物性の解明・成膜プロセスの構築・太陽電池デバイス化技術の確立など種々のテーマを並行して進めていかなければなりませんでした。また,研究室としても太陽電池の研究テーマを立ち上げて間もなかったということもあり,実験設備を使用するために他大学訪問も頻繁に行いました。実験は上手くいく方が稀で試行錯誤の連続でしたが研究者としての思考力・忍耐力が鍛えられました。研究を始めた当初は学会に行ってもZnSnP₂の認知度は低く,太陽電池としても0.1%にも満たない発電効率でしたが,博士後期課程を終える頃には海外の研究者から「あなたの論文を読んだ。とても体系的で良かった。」といった言葉を掛けてもらう機会が増えました。また論文に掲載できるレベルの変換効率も達成でき,充実した学生時代であったと感じます。
 博士後期課程修了後は,研究員を1年経験しウエスタンデジタル合同会社に就職しました。太陽電池に関連する企業への就職も考えたのですが,既存の太陽電池は成熟した技術が多く,よりチャレンジングな半導体業界へ挑戦することに決めました。弊社はキオクシア株式会社とジョイントベンチャーのパートナーシップを結んでおり,私はその一員としてNAND フラッシュメモリの開発を行っています。月日が経つのは早いもので社会人も6年目に差し掛かったところです。
 私はNAND Flashメモリの製造プロセスの一つであるドライエッチングのチームに所属しており,三重県四日市で日々開発業務に取り組んでいます。NAND フラッシュは,2015年頃までメモリセルを二次元的に配置する2D NANDが主流でした。しかし,メモリセル1つあたりの寸法が10nmオーダーに突入すると微細化が困難になり,現在ではセルを垂直方向に積層する 3D NAND フラッシュが主流になっています。この3D NANDではいかに高積層化を達成するかが記憶密度を上げる鍵となっており,High Aspect Ratio (HAR) Etching が Key Technology になっています。半導体業界は装置価格が非常に高価ということもあり,大学研究室よりも企業が最先端技術開発を行っている場合が多くあります。私は幸運にも,最先端装置を駆使したプロセス開発に配属され,加工技術について日々実験・データ分析を進めています。研究室と比較すると開発のスピード感,スケジュール感が大きく違い慣れるのに苦労しましたが,競合他社よりも優れたプロセス構築を目指して日々奮闘しています。
 昨年の2022年には,装置メーカーの最新機種をデモ評価するため米国のシリコンバレーへ約一か月の間,海外出張を経験しました。次世代の装置選定に関わる重要な評価であり,プレッシャーの掛かる場面も多々ありましたが,貴重な経験となりました。現在会社では,チームリーダーを務めておりメンバーの教育にも力を入れながら自身も日々スキルアップに努める毎日です。半導体は昨今ニュースでも取り上げられるように浮き沈みが激しい業界ですが,京都大学時代に培った研究者として思考力・忍耐力・体力をもって邁進していきたいと思います。最後になりましたが,在学中・卒業後にお世話になった皆様に感謝御礼申し上げます。

(材料工学専攻 2017年3月博士後期課程修了)