学生時代・卒業後におけるSiCパワー半導体の研究・開発を通じて

三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 飯島彬文

飯島様 私は2012年に京都大学工学部電気電子工学科に入学,2016年に同学科を卒業後,同大学の大学院工学研究科電子工学専攻に進学し,修士課程を2018年に修了しました。学部時代の授業で半導体物理に強い興味を抱いたこと,またモノづくり(デバイス作製)をしたいという思いから学部・大学院では,次世代パワー半導体材料として期待されているSiC(シリコンカーバイド)の結晶欠陥に関する基礎研究をテーマとして選択しました。はじめは結晶欠陥の観察・物性評価に取り組んでいましたが,実際にデバイスを作りたいという思いが強く,最終的には自作のデバイス中における結晶欠陥の挙動評価まで行いました。研究に夢中になり,昼夜も忘れて実験に没頭したのは今となっては良い思い出です。また,国際学会で成果を発表する機会にも恵まれ,学会の中で一流の研究者の方と関わることで研究に対する視野が広がったとともに,一つのことに注力して完遂する達成感を得ることができました。学生時代での研究活動を通じて,研究者としての強固な礎を築き上げることができ,充実した学生時代を過ごすことができたと自負しています。
 修士課程修了後は三菱電機株式会社に就職し,パワーデバイス開発の部署に配属されました。学生時代の研究テーマでもあったSiCパワーデバイスの設計・試作から特性実証に至るまでに従事しており,かつてから希望していたモノづくりに携わることができています。電力変換時のエネルギーロスを大幅に削減可能なSiCデバイスを搭載したインバータはすでに電鉄などで実用化が始まっていますが,今後車載用途を中心として市場拡大が予測されており,より性能で優れたデバイスを開発するため,日々奮闘しています。会社では学生時代と異なりチームで動くことが多く,事前の準備や議論を入念に行うことから,学生時代と比較すると実験・評価の1つ1つに時間を要しますが,知恵を出し合う分,一人では成しえることができない,大きな仕事ができると感じています。
 昨年2023年には,入社後初めて国際学会で成果を発表する機会を頂きました。会社の肩書を背負った発表は学生時代に経験したものとは異なる責任を感じました。加えて,開発に携わった技術を適用した製品の出荷も開始され,自分が携わった製品が世に出る喜びを感じるとともに,一つの節目を感じています。学生時代から現在に至るまでのSiCパワー半導体をテーマとした研究・開発は決して成功や達成だけではなく,ここには書ききれない多くの苦労や挫折を伴いましたが,それらすべての経験が私の人生において貴重な財産であり,研究者として,また一人の人間として成長するきっかけになったと感じています。今後も社会に貢献できるよう,京都大学で築き上げた研究者としての礎をもとに,一層精進していきたいと思います。最後になりましたが,在学中や卒業後にお世話になった方々に心より感謝申し上げます。

(電子工学専攻 2018年3月修士課程修了)