数理技術のエネルギー取引への応用

Osaka Gas Energy Supply and Trading Pte. Ltd 津崎賢治

津崎様.jpg 私は2002年に京都大学工学部情報学科数理工学コースを卒業後,2004年に同大学の情報学研究科数理工学専攻の修士課程を修了しました。学生時代は多くの大学生の御多分に漏れず,アルバイト・麻雀・サークル活動に没頭する日々。特に,数学好きが集まる情報学科の数理工学コースにおいて,連日麻雀に明け暮れる中で,自然と学問としての確率論への興味が高まっていきました。研究室時代には,担当教官であった宗像先生の下で確率過程の基礎を学び,ブラウン運動のモデル化を通じて分子モーターの挙動解析に取り組みました。
 修士課程修了後は大阪ガス株式会社に就職,データサイエンティストという言葉すら無かった当時では珍しい,社内データ分析組織の一員として様々なデータ分析に8年間従事しました。とりわけ記憶に残っているのは,学生時代に学んだブラウン運動のモデルをベースとする,金融工学技術のエネルギー事業への展開です。国内ガス・電力事業の自由化の黎明期において,既にエネルギー自由化が進んだ欧米で発展した金融工学・エネルギーデリバティブ・市場リスク管理といった概念を社内に浸透させるべく,各所メンバーと邁進しました。同じく数理工学出身の当時の先輩社員と共に取り組んだ,「金融工学を産ガス国との長期LNG(液化天然ガス)契約交渉に活用する」というコンセプトは,実際の契約交渉担当者の多大なるサポートを受け,日本ガス協会からの論文賞受賞やアメリカのエネルギー雑誌への投稿の機会を頂くことができました。
 その後は,日本へ輸入するLNGの原料ガスをアメリカ国内で調達するガストレーディングデスクの立ち上げ,エネルギー取引に係るリスク管理部門の担当を経て,2023年よりシンガポールにてLNGトレーディングのリスク管理を任されています。特に昨今は,ロシアのウクライナ侵攻による国際エネルギー情勢の緊張や,国内での電力ひっ迫を受けたエネルギー価格の乱高下が続くなど,リスク管理を担当する者として当地メンバーと共に刺激的な毎日を送っています。
 京都大学在学中は,英語も話せない自分が将来,アメリカ・シンガポールで日々エネルギー取引と向き合っているとは想像だにしておりませんでした。しかし今思い返せば,学生時代に夢中になった麻雀,そこから興味が湧いた確率・統計学,その応用としての金融工学,これらの理論をベースに大阪ガスでのエネルギー取引基盤構築に関わってきた会社員人生,全て点と点が繋がっていたかのように思えます。今後も,大学時代に学んだ数理技術をエネルギー取引の場で活用しつつ,少しでも低価格なガス・電気を日本国内の皆さまにお届けできるよう精進していきます。
 最後になりましたが,担当教官であった宗像先生を始めとして,在学中・卒業後にお世話になった皆さまに心より感謝申し上げます。

(工学部情報学科 2002年卒業)

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OGEST シンガポールオフィスにて