実践的な研究を目指して

助教 中尾聡史

中尾先生 .jpg 2018年3月に都市社会工学専攻交通行動システム分野にて博士(工学)を取得して,2019年4月から交通情報工学分野の助教として勤務しています。助教に着任してからは,交通事故データの分析,特殊車両の経路選択モデルの構築や,機械学習を用いたインフラの整備効果の予測など,主にデータ解析についての研究を行っています。
 交通は,日々の暮らしと密接な関わりを持つものであり,それゆえ人々の生活はもちろん,経済,社会とも大きく関連してきます。そのため,交通について研究するには,俯瞰的に交通を取り巻く社会問題を捉えるとともに,分野横断的なアプローチが求められます。そうしたことから,社会心理学に関連する研究も行っており,高速道路整備に際して,事業の費用や効果などの客観的な数値データだけでなく,事業者がどのような思いを持ってインフラ事業の計画や建設に関わっているのかといった主観的な情報を市民に提示することの重要性を示す研究も行っています。他にも,近年,社会的な問題となっている高齢者の運転免許返納についての研究にも取り組んでいます。高齢者による交通事故のリスクだけでなく,運転免許を返納することによる健康のリスクについても,社会心理学の知見に基づいて適切に情報を提供することで,返納前から多様な移動手段を確保しておくなどの交通行動変容の重要性を高齢者に伝達する研究を行っています。この研究で得られた知見は,高齢者向けのワークショップやチラシに活用されるなど,様々な形で市民に向けて研究の成果を発信しています。
 このように研究テーマは,身近な交通の安全性から,インフラ整備の情報発信や整備効果予測など,多岐にわたりますが,各研究では常に「いかに実社会に役立つか」という視点を大切にしています。博士論文では,日本における土木に対する批判的な風潮の根底を探るべく,民俗学者から指導をいただきながら,土木に関わってきた技術者や労働者の歴史や民俗の研究にも取り組んできました。現実の問題の解決を目指して,方法にこだわらず,様々なアプローチに挑戦し,実践的な研究を続けていきたいと考えています。自分の研究はまだまだ社会に貢献できていませんが,実社会に資するよう,一つ一つしっかりと研究を積み上げていきたいと思います。
 最後に,今回若手教員として,紹介記事を掲載いただく機会を頂戴しましたことに,関係者の皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。

(都市社会工学専攻)