学びと経験を活かして,水インフラの現場へ

日本下水道事業団 技術開発室 / 国際戦略室 熊越 瑛

 私は2013年に京都大学工学部地球工学科環境工学コースを卒業し,2015年に同大学院工学研究科都市環境工学専攻の修士課程を修了しました。学生時代はサークル活動や旅行,お寺巡りなど,学業以外にも多くの時間を費やしました。もともとエネルギーや環境問題に関心があり地球工学科に入学しましたが,友人との旅行中に東日本大震災に遭遇し,避難生活を経験したことが大きな転機となりました。避難所で衛生環境の悪化を目の当たりにし,社会に役立つ知識を学びたいと考え,水環境や公衆衛生について学べる研究室を選びました。
 研究室では水野先生や西村先生のご指導のもと,河川水や湖沼水中の溶存有機物質とオゾンの反応特性に関する研究に取り組みました。淀川でのサンプリングや基礎実験,国際学会の発表準備に追われながらモントリオール行きの飛行機内でプレゼン原稿を作成したことなど,今となっては大切な思い出です。
 修士課程修了後は,大学で培った知識を社会インフラの分野で活かし,公共の現場で専門性を高めたいと考え,日本下水道事業団に入社しました。入社後は下水処理場の増設工事の発注や改築・更新の施設設計,県庁下水道課への出向など,さまざまな部署で業務を経験しました。下水道の設計基準や行政の考え方を学び,関係者と協議を重ねる中で現場ごとに異なる課題に向き合い,求められる知識の幅広さと実践力の大切さを実感しています。
 現在は下水汚泥の有効利用を促進するため,基礎調査や民間企業との共同研究に取り組んでいます。近年は肥料原料の安定確保やエネルギー消費の削減,温室効果ガス排出の抑制など,汚泥資源の循環利用が社会的にも注目されており,その重要性を実感しています。また,カンボジアの下水道事業支援やフィリピンでの技術視察,カナダの大学との国際技術交流など,海外での活動にも取り組んでいます。
 学生時代に先生方から教わった「施設規模と性能を読み解く現場感覚」は,業務でも意識している教えです。また,「頭はクールに心は熱く」という姿勢も大切にしています。こうした学びや現場経験を積み重ねる中で,技術士(上下水道部門)の資格を取得し,今も知識の研鑽に努めています。現場では施設の老朽化やエネルギー問題など,新たな課題にも直面しており,新技術の導入や施設更新の必要性を日々感じています。また,現場の変化に柔軟に対応し,課題解決に取り組む重要性もあらためて実感しています
 振り返ると,学生時代に培った研究への姿勢や学会発表の経験は今の業務にも確実につながっています。今後も大学で得た知識や経験を活かし,下水道分野の発展と社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。思うように成果が出ないこともありますが,これまで大切にしてきた粘り強さを忘れず,今後も努力を重ねていく所存です。

 最後になりましたが,指導教員であった西村先生,水野先生をはじめ,在学中・卒業後にお世話になった皆さま,そして家族に心より感謝申し上げます。

(都市環境工学専攻 2015年修士課程修了)