有機分子デザイン研究で大きなジャンプを目指して

助教 良永裕佳子

 合成・生物化学専攻 有機設計学講座(杉野目道紀教授)で助教として,有機合成化学の研究をしております。2020年3月に同研究室を卒業し住友化学株式会社(当時の情報電子化学品研究所)に2年5カ月勤めましたが,その後出身研究室で教員となるチャンスを戴き,2022年9月からアカデミアでの研究をスタートし今に至ります。私と同じように転職を経て大学教員に着任される方も意外と周りに多いことに最近気づきました。それでも自分のような人間が学術研究・教育に取り組む機会をいただけるとは些か信じがたく,御指導いただいている杉野目教授はじめ同研究室の山本講師,学生達,お世話になっている学内外の先生方に感謝してもしきれない思いです。
 学生時代と同じ研究室で過ごしておりますが,当時と比べて見える景色はやはり異なり,未だ全く飽きることはありません。研究対象は一貫して,有機分子の精密合成,特にキラル分子(低分子・高分子)のデザインとその合成法開拓です。分子を合成することが好きで,特に自分のアイディアを分子設計に投影すると新たな自分の領域が広がることに喜びを感じます。教員の立場となり,より長い時間軸でのインパクトを考えつつより自由度の高い研究をさせていただくようになりました。その中で今課題だと感じているのは,生み出した分子の真の有用性に向き合うことです。分子の合成を続ける中で真に機能する材料としての分子を手にすることを夢見て,一方で目指している機能が本当に意味のあるものなのか,何か別の意義につながるのではないかを常に考え続け,分子構造と機能性の新しい橋のつなぎ方を作り出せるように研鑽の日々を過ごしています。
 特に興味を持っているものの一つは,精密な構造をもつ高分子の新規設計です。高分子材料は身の回りにも溢れていますが,その分子としての姿はある程度の欠陥や分布を持つものであり,精密に合成し評価することは困難です。もし精密な高分子を合成し評価する手法が確立できれば,機能性高分子として新たな可能性が拓けることとなります。どんな高分子でも精密につくるということは難しいですが,高分子の主鎖構造を工夫することで,欠陥を少なくし,また生じた欠陥を検出・分析しやすくすることができます。分子構造と実機能を精度良く結びつけて議論する土台になると考えていて,そんな高分子の設計と合成,機能化に取り組んでいます。
 とはいうものの,日々目的に向かって計画通りにいくはずはなく,思いつき任せ行き当たりばったりのことも多く,有機分子デザインの広い海をあちらに行ったりこちらに戻ったりしています。学生さんと過ごしていると,コンスタントな進展の研究より不連続な点が多くある研究の方が自分にとって面白く思えるなぁと感じています。大きなジャンプといえるような研究の発展を目指し邁進して参ります。皆様方には今後ともお世話になるかと思いますが御指導御鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。

(合成・生物化学専攻)