人とAIの共生時代における人間の位置付け

助教 丁 世堯

 2022年9月に京都大学情報学研究科社会情報学専攻で博士号を取得した後,10月に助教として着任した。現在は,エージェントの意思決定や,エージェントと人間の合意形成を中心としたマルチエージェントの研究に取り組んでいる。私はこれらの研究の社会的な影響について特に関心を持ち,研究機関や企業と連携しながら強化学習やゲーム理論などの手法を用いて,エッジサーバの協調やドローン配送及び自動交渉等,多様な社会実装を進めている。
 一方,昨今はGPTを代表とする大規模言語モデル(LLM)の進展などの第四次AIブームにより,第一次AIブームに描かれた「機械が人間のように思考し,推論し,世界を理解する」というAGI(汎用人工知能)の実現にかつてなく近づいている。AIは人々を煩雑な作業から解放する一方で,人間の価値を脅かす側面も持つ。私たちは,AIと共に生きる時代において,人間の位置付けを真剣に考える必要があるかと思い,主に以下の2点を考えている。
 第一に,人間こそがAIに“原動力”を与える存在である。また,AIがどれほど進化しても,人間のような自己意識や欲望を持つことはないと考えられる。意識や欲望は世界を動かす根本的な原動力であり,AIはあくまで人間の意志に従って行動する。このため人間を中心に据えたAIの開発が重要であり,人間の内面を理解することが極めて重要な研究課題となる。現在のLLMは高度ではあるが,人間の内面を真に理解するには至っていない。例えば,自動返信の場面,同じ誘いに対しても人によって返答は異なる。ユーザの心情や対人関係を踏まえ,応答を柔軟に調整することは未だに難しい。そこで,誰に,どの場面で,なぜその言葉を選ぶのか,というような人間の内面を理解し,人間のような応答を再現することが出来るパーソナライズLLMの構築に取り組んでいる。
 第二に,人間はAIのスーパーバイザーとしての役割を担う必要がある。AIは問題解決には優れているが,重要な問題を聞く(Asking important questions)には限界がある。そのため,人間が重要な課題を見定め,AIに対して適切に指示やフィードバックを与えることが不可欠である。一方,こうしたAIの活用によって,従来の「プロセス→結果」という流れは「結果→フィードバック」へと変わりつつある。例えばプログラミングでは,以前は人間が言語を習得し自らコードを書いていたが,現在ではLLMがニーズに応じてコードを生成し,人間がその結果にフィードバックを与えて改良する形に移行している。今後は,AIに対して効果的なフィードバックを行い,より良い成果を引き出す力が求められる。この変化に応じて,人々がAIの出力を正しく理解し,迅速に知識を吸収する「理解の加速」が大きな課題となっている。
 総じて言えば,AIをいかに「人をより深く理解できる存在」にするか,そして人がいかに「AIをより理解できる存在」にするか,が人とAIの共生時代において重要であると思う。

(情報学研究科)