「光子のふしぎと光量子センシング」を大阪・関西万博に出展しました

電気電子デジタル理工学専攻 教授 竹内繁樹

■万博での量子展示に工学研究科を中心に出展
 2025年8月14日から20日の7日間,大阪・関西万博のEXPOメッセ「WASSE」を会場として開催された内閣府・文部科学省主催の展示会「エンタングル・モーメント」に,工学研究科を中心とした京都大学万博量子展示チームは,「光子のふしぎと光(ひかり)量子センシング」と題して出展しました。光子の量子的性質や光量子センシング技術を,今回のために特別に製作した実験装置を用いて紹介し,会期中に約3万人にご覧いただきました。本稿では,展示企画の背景,準備の過程,会期中の様子,そして本展示を通じて得られた知見について報告します。なお,登場する方の役職名は,当時のものです。

■文部科学省からの依頼と京都大学万博量子展示チームの結成
 2025年は,ハイゼンベルクによる量子力学の誕生から100年となる節目の年であり,国連はこれを記念して2025年を「国際量子科学技術年」と定めました。この国際的な取り組みに呼応した万博での量子展示企画について,文部科学省より最初に伺ったのは2023年6月のことでした。当初は,全体で会議室規模の展示の一角に,小型の実験装置をお貸し出しする程度を想定していましたが,約1か月後のオンライン会議にて,展示スペースとして全体で約2,000 m2が確保され,そのうち100〜150 m2の展示協力の検討を依頼されました。大規模な展示となることに驚くとともに,研究室単独での対応は困難であると判断しました。
 2020年度まで副研究科長を務めていたご縁で,KURA(現・総合研究推進本部)の大西将徳氏が日本科学未来館に所属されていたことを知っていましたので,KURAの大嶋正裕部門長にご支援をお願いしたところ,ご快諾いただきました。さらに立川康人工学研究科長からも,研究科として全面的に協力いただけることになりました。その後,成長戦略本部,京都大学総合博物館,島津製作所,santec Holdingsなど,多くの学内外の組織からのご支援を得ることができました。
 2024年3月には,大西氏の紹介によりキュレーターの今泉真緒氏を迎え,関係者からなる「京都大学万博量子展示チーム」が一堂に会するキックオフ会議を開催しました。展示コンセプトは「本物の量子もつれを見て,感じていただく」とし,2022年ノーベル物理学賞の対象となった「量子もつれの検証実験」を実演するという世界的にも極めて希な展示を含む,計5台の装置を中心とした展示計画を策定しました。

■展示に向けた課題と克服
 量子もつれの実験は,本来,温度・湿度・振動が厳密に管理された実験室環境で行われます。万博会場のような一般展示空間で実験を成立させることは大きな挑戦でしたが,岡本亮准教授,衞藤雄二郎准教授,向井佑助教を中心とする研究室スタッフと学生有志が,多くの困難を乗り越えて装置を完成させました。また彼らは,仮設暗室での緊急メンテナンスなど,会期中も,装置の安定稼働のための努力を続けました。
 また万博には子どもから高齢の方まで幅広い年代の来場者が訪れます。専門性の高い内容を分かりやすく伝えるため,今泉氏に加え,日本科学未来館の「インターネット物理モデル」で知られる島田卓也氏,朴鈴子氏らキュレーターチームが展示デザインを担当しました。多彩な専門家が結集し,本学出身のノーベル物理学賞受賞者・朝永振一郎先生のエッセイ「光子の裁判」をもとに創作したキャラクター「ミツコ」が展示案内役を務めるアニメーションやインタラクティブな什器などの展示を実現しました。

キャラクター「ミツコ」と会場で展示されたグラフィック

 さらに,会期中は,朝10時から夜20時までの長時間にわたり,来場者対応が必要でした。研究室スタッフは装置の設置・撤収やメンテナンスに専念する必要があり,それ以外に展示運営には延べ60名を超えるスタッフ体制が求められました。この課題は,取りまとめいただいた芳倉清紀桂地区(工学研究科)学術協力課課長補佐をはじめとする事務部の皆様,成長戦略本部,総合研究推進本部の皆様の多大なご協力により解決することができました。また,事前および会期中の広報においては,桂地区(工学研究科)総務課,本部国際広報室,総合研究推進本部の多大な支援を受け,幸いにも新聞各紙をはじめとする各種メディアでもご紹介いただきました。

万博出展初日スタッフの集合写真

■展示を通じて得られた学びと今後の展望
 開場前には,来場者数が少ないのではとの心配もありましたが,広報のおかげもあり,幸いにも,初日から予想を大きく上回る来場者が訪れ,最終日までに28,985名のご来訪をいただきました。また,来場者のアンケートでも,多数の好評の声を頂きました。
 今回の展示を通じ,科学展示にはキュレーターをはじめ多くの専門家の知恵と努力が込められていることを実感しました。また,研究者の想いやビジョンを,一般の方々や異分野の方々と共有する場として,科学展示が果たす役割の大きさを強く感じました。学生にとっても,量子のおもしろさを一般の方に分かりやすく伝える,貴重な機会となりました。
 展示で使用したアニメーションや装置の動画は,京都大学万博量子展示ホームページおよび京都大学「知の森」動画サイトで公開しています。また,アンケート等での多数の要望をふまえ,学内外での再展示の機会も検討したいと考えています。
 最後に,島津製作所,santec Holdings,また京都大学の総合研究推進本部,成長戦略本部,桂地区(工学研究科)事務部をはじめとする学内外の関係者の皆様,そして京都大学万博量子展示チーム各位のご尽力に心より感謝申し上げます。

「量子もつれの検証実験装置」を来場者に説明する竹内繁樹先生


■展示運営スタッフとして参加して(桂地区(工学研究科)総務課・掛員)
 展示運営スタッフとして,展示最終日の8月20日に参加しました。来場者はご両親と手をつないだ小さなお子さんから,竹内研究室の学生とその場で議論するご年配の方まで多様だったことが印象的で,ピーク時には入場制限を設けるほどの人が集まっており,ご案内するだけで精一杯でした。また,竹内先生自ら,展示機器についてご紹介くださっているときには,来場者の多くが足を止め,関心を寄せていました。聞こえてくる会話も「ミツコちゃんかわいいね!」「光量子センシング技術の今後の展望は…」など幅広く,来場者の持っている知識に沿った楽しみ方で学んでくださっていたように感じられました。
 日本での万博開催は55年ぶりで,次回は未定です。こうした貴重な機会にスタッフとして関わり,来場者が新たな発見を得る機会の一助となれる素晴らしい経験をさせていただきました。

様々な表情のキャラクター「ミツコ」

参照:
京都大学万博量子展示ホームページ 光子のふしぎと光量子センシング
https://photonsensing.org/kuexpo/about.html
竹内繁樹先生「光子のふしぎと光量子センシング」京大知の森(令和7年度秋季)
https://www.channel.pr.kyoto-u.ac.jp/video/40139

 本展示は,文部科学省 Q-LEAP「量子もつれ光子対を利用した量子計測デバイスの研究」ならびにJST-ERATO「竹内超量子もつれ」プロジェクトのアウトリーチ活動として実施しました。