日本工学教育協会 関西工学教育協会 第73回年次大会開催報告

第73回年次大会実行委員長 蓮尾昌裕

 日本工学教育協会と関西工学教育協会の共催のもと,日本工学教育協会第73回年次大会が京都大学桂キャンパス(船井哲良記念講堂およびC3棟)において令和7年8月27日~29日の3日間で開催された。大会では500名弱の工学教育を研究する参加者が集い,熱心な発表と討議が行われた。関西地区での開催は9年ぶり,京都大学では30年以上開催されておらず,当然ながら桂キャンパスでは初めての開催となった。本稿では本大会の準備から実施までにおける活動を報告する。

開催まで
 令和6年春段階で第73回年次大会が京都大学で開催されることが決まっており,第72回年次大会の見学と引継ぎのため,令和6年9月4日に立川研究科長,大野総務課長,服部総務課長補佐と蓮尾で九州大学伊都キャンパスに行った。日本工学教育協会は昭和27年に設立された工学教育に関する調査研究とその成果の普及・推進等を行う由緒ある学会である。文部科学大臣賞をはじめとする工学教育賞の授与も行われる。引継ぎの際には参加者一同,来年の京都大学での年次大会を成功裏に行うべき緊張感と責任感に包まれた。
 また,年次大会では開催校が中心となって大会メインテーマを設定し,特別企画とシンポジウムも企画することになっている。立川研究科長/関西工学教育協会会長を中心として工学研究科執行部と関西工学教育協会で大会メインテーマや各種企画を立案しつつ,令和7年6月には実行委員会を立ち上げ,総務課/関西工学教育協会事務局との連携のもと開催準備を進めた。

大会メインテーマ
 総合知を育む工学教育
(趣旨)工学は地球社会に役立つ技術開発を目的とする。最先端の科学技術を追求するだけでなく,人の心や環境,安全性,社会性,経済性,持続可能性を重視し,科学技術を人や社会に役立てて,目の前の課題に対処することが工学の目的である。そのためには,専門分野に関連する自然科学に加えて,人文科学や社会科学にも関心を持ち,それらの知識を用いて自ら課題を見出し解決する力を育む教育が欠かせない。 そこで,今大会のメインテーマを「総合知を育む工学教育」とし,専門知を広げ総合知を育み活用するために工学系大学・高専のリベラルアーツ教育から専門教育,リカレント教育にわたる工学教育の新たな展開について議論する。

大会報告
〇開会式
 日本工学教育協会会長の岩附信行氏と関西工学教育協会会長・本大会委員長/京都大学工学研究科研究科長・教授の立川康人氏から開会挨拶があった。続いてあべ俊子文部科学大臣からの祝辞が松本英登文部科学省高等教育局専門教育課長により代読された。

立川康人関西工学教育協会会長・本大会委員長/京都大学工学研究科研究科長の開会挨拶の様子

岩附信行日本工学教育協会会長の開会挨拶の様子

〇表彰式
 文部科学大臣(代理),経済産業省イノベーション・環境局長(代理),岩附日本工学教育協会長から,それぞれ文部科学大臣賞,経済産業省イノベーション・環境局長賞,工学教育賞の賞状が受賞者に授与された。京都大学工学部からは,学部教育における土木工学分野の国際コースプログラムが,土木技術を学んだ国際的リーダー育成に長年にわたって取り組み,多くの卒業生を輩出しており,また自律的かつ継続性の高い運営体制を構築している点などが高く評価され,地球工学科国際コースに業績部門の工学教育賞が授与された。

〇特別講演Ⅰ
 文部科学省高等教育局専門教育課長の松本英登氏からは「我が国の高等教育の現状等について」,経済産業省イノベーション・環境局大学連携推進室長の川上悟史氏からは 「科学とビジネスの近接化-時代における理工系人材の活躍に向けて―」,京都大学国際高等教育院長の大嶋正裕氏からは 「総合知のもとでの専門教育と教養教育のせめぎ合い―現代工学教育における教養教育の意義と課題」と題する特別講演があった。工学教育に関する国の動向や期待および京都大学における初年次教育の課題と取り組みが紹介された。

〇交流会
 初日の夕刻には交流会を開催した。100名近くの参加者が集い,飲食とともに工学教育に関する交流を楽しみ,盛会となった。

〇特別講演Ⅱ
 アメリカ工学教育協会会長のChristi Patton Luks氏からは「Shared Challenges and Collective Resilience in Global Engineering Education」,韓国工学教育学会国際連携担当理事のYounghoon Park氏からは「The Introduction to KSEE and Recent Trends in Engineering Education in Korea」,マレーシア工学教育協会会長のNurzal Effiyana binti Ghazali氏からは「An Introduction to SEEM & Recent Trends in Engineering Education in Malaysia」と題する特別講演があった。各国における工学教育の最近の動向が紹介された。

〇教育力向上セッション
 セッション演題を「技術者教育力の進化―生成AIの活用―」として,豊橋技術科学大学教授の市坪誠氏からは「教育士制度の普及拡大に向けて」,一関工業高等専門学校校長の小林淳哉氏と日本大学特任教授の青木義男氏からは「技術者教育力の進化(生成AIを活用した教育力の向上を事例として)」の題目で講演があった。

〇特別企画
 関西工学教育協会の企画として工学部長・学長等会議を開催した。企画の具体化は本大会実行委員で京都大学工学研究科副研究科長・教授の小椋大輔氏により行われ,企画テーマを「“惹かれる工学”とは何か?―未来を担う多様な選択肢としての工学を考える―」とした。最初に八大学工学系連合会会長/九州大学工学研究院長・工学部長・教授の山本元司氏から「理工系女性人材が増えるために―工学系の現状と八大学の取り組み―」の題目で,国内の理工学系への女子学生の進学動向や八大学による取り組みに関する講演があった。続いて,京都大学工学研究科教授の平田晃久氏,平山朋子氏,京都大学防災研究所特定教授の土佐尚子氏から,それぞれ建築系,機械系,芸術系の 各分野における魅力と女性人材に期待する将来が語られ,引き続き小椋大輔氏の進行により「女性にとって“惹かれる工学”とは何か-技術の魅力をどう育て,伝えるか」のテーマでパネル討論を行った。

山本元司八大学工学系連合会会長/九州大学工学研究院長の講演の様子

〇シンポジウム
 関西工学教育協会の企画として,関西工学教育協会と日本工学アカデミー関西支部の共催でシンポジウムを開催した。企画の具体化は本大会副実行委員長で京都大学工学研究科副研究科長・教授の横峯健彦氏により行われ,シンポジウムテーマを本大会の主テーマを踏まえて「総合知を育む工学教育“ものづくりを通じた「総合知」の育成”」とした。シンポジウムでは日本工学アカデミー関西支部長/大阪大学理事・副学長の田中敏宏氏による開会挨拶の後,横峯健彦氏による企画趣旨説明があった。続いて,本大会実行委員長で京都大学工学研究科副研究科長・教授の蓮尾昌裕によるモデレーションのもと,パナソニックHD名誉技監/ESL研究所所長の大嶋光昭氏,奈良工業高等専門学校校長の近藤科江氏,大阪大学工学研究科教授の倉敷哲生氏,京都大学工学研究科教授の髙橋良和氏,京都大学情報学研究科教授の谷口忠大氏をメンバーとするパネルディカッションが行われ,会場を巻き込んだ活発な討論となった。

シンポジウムの様子

〇一般講演
 3日間の開催期間にわたって,222件の講演発表があり,ポスターセッション,録画発表も実施された。一般セッションでは,「多様化時代の教育手法とそのシステム」,「グローバルスタンダードに対応した教育システム」,「実験・実技を通じたエンジニアリング・デザイン教育の実践方法とその教材開発」,「地域社会に貢献する学生活動」,「AI・データサイエンスおよびSociety 5.0に対応した教育システム」,「講義・演習形式によるリベラルアーツ教育方法とその教材開発」,「学生セッション」,「産業界が求めるコミュニケーション能力の育成方法」,「高等教育とウェルビーイング」,「Society 5.0時代を担う理工系人材育成に関する高専教育の実践と展開~高専における取組~」,「工学教育・システムの個性化・活性化」,「工学女子を育成する様々な取り組み」,「ものづくりの技能科学」,「理工系人材育成に関する高専教育の実践と展開」,「インターンシップ教育,企業×大学」,「高大院連携,社会・地域貢献,社会人教育,企業における技術者教育」,「アントレプレナーシップ教育」,「ICTを活用した教育システム」のセッションテーマで講演があり,工学教育に関する様々な研究が報告された。各セッションにおいて,問題解決型の教育システムに関係するテーマや急激に発展している生成AI,機械学習,ICTに直接的もしくは間接的に関係する発表が比較的多かった。
大会を通して,対面ならではの活発な討議が行われた。

〇閉会式
 最終日に行われた上記シンポジウムの終了後に同会場にて行われ,立川大会委員長による閉会の辞が述べられて閉会式が終了した。

振り返って
 私たちは日常,工学教育を行ってはいるものの工学教育を研究するという視点で捉えることはあまりなかったと思う。今回,日本工学教育協会の活動を知り,本大会の開催に携わることができたことは,とても貴重な経験であった。工学教育活動で何らかの工夫や新しい取り組みを行い,その効果を評価・検証することは,工学教育に関する研究そのものである。是非,皆様もそのような視点で活動の幅を広げていただければと思う。
 最後となったが,日本工学教育協会事務局の皆様には,前回大会の引継ぎから本大会の終了までの様々な場面で貴重な指導・アドバイスをいただいた。総務課/関西工学教育協会事務局の皆様には,準備から大会実施までのロジスティクスを完璧に進めていただいた。実行委員会および学生アルバイトの皆様には,大会期間中の円滑な運営を担っていただいた。関係する皆様に心より感謝を述べる。