卓越大学院プログラム「先端光・電子デバイス創成学」

プログラムコーディネーター 木本 恒暢

Kimoto2019_web.jpg 「卓越大学院プログラム」は,文部科学省から提唱された 5 年一貫の博士学位プログラムです。「各大学が自身の強みを核に,これまでの大学院改革の成果を生かし,国内外の大学・研究機関・民間企業等と組織的な連携を行いつつ,世界最高水準の教育力・研究力を結集した 5 年一貫の博士課程学位プログラムを構築することで,あらゆるセクターを牽引する卓越した博士人材を育成するとともに,人材育成・交流及び新たな共同研究の創出が持続的に展開される卓越した拠点を形成する取組を推進する事業」1)と定義され,平成 30 年度に初回の公募がありました。全国の大学から 50 件を越える応募(医学, 薬学,理学,工学,農学,文系など多岐に亘る分野) があり,15 件が採択されました。京都大学では幸いにして,電気系専攻が中心となって提案しました「先端光・電子デバイス創成学」1件が採択されました。この 4 月に 19 名の第一期生を迎え,様々な人材育成事業を進めております。
 IoT (Internet of Things) 革命,ウェアラブル情報機器,車の自動運転や電動化,スマートグリッドや再生可能エネルギー導入によるエネルギー革命など, 現在,人類社会は大きな変革期を迎えています。このような社会では,無数の高性能光・電子デバイスがハードウェアの中核として有機的に一体化しながら機能しており,今後,さらなる高性能化と新機能の創出が要求されます。一方で,近年の科学技術の進歩による知の爆発的拡大の結果,専門分野の細分化が著しく,総合的視野の欠如という問題を生んでいます。とりわけ,高度情報化社会・環境・エネルギー・人工知能といった人類社会の広範な分野に亘る課題を解決するためには,特定の学問領域における専門教育だけでは十分でないと考えられます。基礎学理からシステム応用までを俯瞰しながら正しい判断を下し,挑戦的課題に取り組み,将来は当該分野を牽引できる人材を育成することが大切です。
 京都大学電気系専攻では,本学発祥とも言うべき多くの独自の学術概念やキーテクノロジーを有しており,約 7 年前に終了したグローバル COE プログラム「光・電子理工学」(拠点リーダー:野田進教授) におきましてもトップクラスの評価を獲得しました。本卓越大学院プログラムでは,これをさらに発展させ,「物理限界への挑戦と情報・省エネルギー社会への展開」を共通理念として,光・電子デバイス分野を中心としながら,その基礎物理・理論の深化からシステム・情報の制御・応用にまたがる融合・垂直統合型の教育を推進します(図1参照)。中でも基礎物理の教育を担当する理学研究科(物理学・宇宙物理学専攻)から通信情報システムの教育を担当する情報学研究科(通信情報システム専攻)までの「融合・垂直統合教育」が本プログラムの大きな特徴になっています。また,我が国を代表する民間企業(日本電産,島津製作所,三菱電機,住友電気工業),最高水準の研究力を有する国公立研究所(物質・材料研究機構,量子科学技術研究開発機構,産業技術総合研究所など),トップクラスの海外有力大学(ケンブリッジ大学,スイス連邦工科大学チューリッヒ,フンボルト大学ベルリンなど)と連携し,京都大学の枠を超え,産・官,さらに国の枠を超えた学びの場を学生に提供することにより,「先端光・電子デバイス学」を創成する国際的な知のプロフェッショナルを,5 年一貫の博士課程学位プログラムにより育成します。なお,本プログラムでは,工学研究科電子工学専攻の竹内繁樹教授,理学研究科物理学・宇宙物理学専攻の田中耕一郎教授の両先生に副プログラムコーディネーターに就任いただき,運営にご尽力いただいています。

図1:卓越大学院プログラム「先端光・電子デバイス創成学」のスキーム
図1:卓越大学院プログラム「先端光・電子デバイス創成学」のスキーム

  本プログラムでは,「物理限界への挑戦と情報・省エネルギー社会への展開」を共通理念として先端光・電子デバイスおよび関連する学問分野を牽引できる国際的リーダーを育成します。養成すべき人材像として,(1) 独創力:科学技術に関する独自の着想,創造力と企画力,(2) 俯瞰力:学問の過度の専門化に陥ることのない,広い視野と分野横断的な知の体系化能力,(3) 挑戦力:常に進取の精神を持って未踏分野に挑戦し,新たな知の創造を行う能力,(4) 国際力: 高度な国際性とコミュニケーション力を活かして,チームを牽引するリーダーシップ,(5) 自立力:自己管理された課題の設定,解決能力を有する人材を掲げています。
 教育プログラムの観点では,理学,工学,情報学研究科のカリキュラムを尊重しながら,本プログラムの特色である研究科間の壁を取り払った融合教育を推進します(図2参照)。修士課程入学直後から複数教員指導制を開始し,異分野の研究室で短期間の研究を行う「研究室ローテーション」により視野を広めます。学年が上がるに従って,本プログラムを履修する学生全員が泊り込みの合宿形式で海外研究者と研究課題を議論する「国際セミナー道場」で切磋琢磨し,国内の連携機関や海外の連携大学に短期滞在して武者修行をする「連携機関/国際フィールド・プラクティス」を経験します。学位審査に関しては,多段階の Qualifying Examination (QE) に加えて,海外著名研究者による国際審査を実施し,国際的な卓越性も担保します。この他,学生の自由な着想に基づく研究提案を審査の上,研究助成を行う「光・電子デバイス創成学研究グラント」制度を導入するなど,多様な教育プログラムを実施します。

図2:研究科をまたぐ教育プログラムの模式図
図2:研究科をまたぐ教育プログラムの模式図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお,本卓越大学院の定員は各学年 20 名です。「先端光・電子デバイス創成学」は,自然現象,特に光や電子に関わる真理を探求し,その真理を核として人類の生活に貢献する科学技術を創造する役割を担っています。したがいまして,以下に記すような学生の入学を本卓越大学院では望んでいます。
• 本プログラムの目的に共感し,その育成目標の人材となる強い意欲を有する人
• 専門分野,およびこれに関連する学術分野において真理を探求するために必要な基礎学力と知的好奇心を有し,粘り強く問題解決を試みることができる人
• 優れた論理的思考力を有し,既成概念にとらわれない判断ができる人
プログラム履修者の選抜では,学修を希望する専門分野の基礎学力に重点をおきつつ,先端研究を推進・展
 開できる基礎的能力の評価も加えて選抜します。なお, 本プログラムには,工学研究科(電気工学専攻・電子工学専攻),理学研究科(物理学・宇宙物理学専攻),情報学研究科(通信情報システム専攻)の博士前期課程( 修士課程) あるいは前期・後期一貫( 連携教育プログラム) の博士課程への入学が許可された者もしくは志願者が応募できます。また,博士後期課程への入学を許可された者がプログラム 3 年次への編入に応募することも可能です。プログラム履修生は,京都大学の規定に基づいて,RA またはOA として勤務することができます。本プログラムを修了したことにより授与する博士学位は,工学研究科においては「博士 ( 工学 )」,理学研究科においては「博士 ( 理学 )」,情報学研究科においては「博士 ( 情報学 )」です。それぞれ,学位記に本プログラムの修了を付記します。

図3:キックオフシンポジウムの写真
図3:キックオフシンポジウムの写真

 昨年度の後半に,大嶋工学研究科長や事務部の方々の多大なご支援の下,急ピッチで運営体制を整備し, 第一期生の募集と選抜を行った結果,この 4 月に 19 名の履修生を迎えることができました。また,本プログラムの周知が十分でなかったことを鑑み,今春に特別追加募集を行い,さらに数名の履修生を得ることができました。3 月 5 日には山極総長,北野理事・副学長,各研究科長の先生方もお迎えしてキックオフシンポジウムを桂キャンパスの船井哲良記念講堂で開催いたしました(図3参照)。キックオフシンポジウムでは,参画機関(民間企業,国公立研究所など) のプログラム担当者からのご講演に加え,「魅力的で強い卓越大学院とは」というタイトルでパネルディスカッションを開催し,熱気のある議論を行いました。さらに,同日の午後には Symposium on Creation of Advanced Photonic and Electronic Devices 2019  を同時開催し,参画する専攻の博士後期課程学生を中心とした学生による英語でのポスター発表を実施して,基礎物理,材料・デバイスからシステム応用に亘る研究について議論や意見交換を行いました。
 本卓越大学院プログラムの詳細,学生募集,イベント等の詳細は本卓越大学院ホームページ(図4) をご覧下さい 2)。皆様方からのご支援と御鞭撻を賜ることができましたら大変幸いです。

(電子工学専攻 教授)

1) http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/takuetudaigakuin/index.htm

2) http://www.e-takuetsu.ceppings.kyoto-u.ac.jp/

図4:本卓越大学院プログラムのホームページ
図4:本卓越大学院プログラムのホームページ