学生時代の回想と現在

社会基盤工学専攻 2017年1月博士後期課程修了 木村 俊則

著者近影(木村俊則)_web.jpg

 山口県の田舎育ちで自然と物理が好きで,さらに古都京都にあこがれていた私は京都大学工学部地球工学科に 1998 年 4 月に入学しました。その後,入学後に出会った都会としての京都にすっかり毒されてしまい,学部生時代はほとんど学校にも行かず,怠惰な学生生活を送っていました。遂に 3 年生から 4 年生に進級する際に単位が足りず研究室に配属されなかった時,当時研究室 ( 社会基盤工学専攻ジオフィジクス分野 ) の教授でおられた芦田讓先生にご自身の経験などを踏まえた温かい励ましの言葉を頂いたことを覚えています。ここで少し心を入れ替えて受けた芦田先生の授業が,元々自分が好きだった自然と物理が融合した学問,地球物理学 / 物理探査学に関するものでした。目では見えない地面の下を様々な物理現象・数式を用いて明らかにする物理探査にとても興味を持ち,入学以来ほぼ初めて真剣に勉強をし,そのまま芦田先生の研究室を希望し無事配属となりました。

 研究室配属後,先生方と研究テーマについて相談する際に, 国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)との共同研究として南海トラフプレート沈み込み帯での電磁気構造探査というテーマがありました。研究対象のスケールの大きさ,そして何より調査船に乗ることが出来るという興味でテーマに飛びつき, 研究をスタートしました。当時JAMSTEC におられた現研究室 ( 社会基盤工学専攻応用地球物理学分野 ) 教授の三ケ田均先生はじめ,共同研究者の皆様の研究に取り組む姿勢に感銘を受けながら,海・地球を対象とする研究の面白さにのめりこんでいきました。その後,大学院に進学し研究は続けましたが,修士課程修了後の 2005 年 4 月には民間の地質調査会社に就職し,一旦研究生活から離れることになりました。一方で研究への興味はくすぶり続け,縁あって 2009 年 4 月には JAMSTEC に技術研究員として再度研究の世界に戻ることになりました。また,2017 年 1 月には,三ケ田先生のご指導の元,社会人博士課程の学生として博士学位を頂戴し,引き続き現在まで研究活動を続けています。

 JAMSTEC では,対象は学生時代と同じ南海トラフプレート沈み込み帯ですが,より観測に重点を置いた研究開発に取り組んでいます。私が所属するグループでは,プレート境界型地震想定震源域直上の海底下に地震・地殻変動・津波等を観測するセンサーを設置し,地震の準備過程に伴い発生する微小な地震・地殻変動を捉えようとしています。より震源に近い場所での観測を実現するため,センサーはJAMSTEC が所有する地球深部探査船「ちきゅう」により掘削された最大 1000m 程度の孔内に設置されます。また,これらのセンサーは同海域の海底に敷設された地震津波監視システム (DONET) の海底ケーブルに接続することでリアルタイム観測を実現しています。私は本プロジェクトにセンサーの開発から設置まで,幅広く担当者としてかかわっており,2018 年度末までに海底に 3 点の孔内観測点を設置することに成功しました。写真は「ちきゅう」によるセンサー設置中に私がケーブルの確認を行っている様子です (http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20161130/)。 観測されたデータにより,海溝軸付近での「ゆっくり滑り」の繰り返しの発生が初めて明らかになるなど,これまで観測されていなかった新たな現象も明らかになりました。
 
 また,孔内,海底地震計を人工地震探査の受振装置として利用する「物理探査」的な研究も進めています。これらの受信装置と探査船でえい航する人工音波震源「エアガン」との組み合わせで,地下の地震波の伝わる速さ,さらには地中に作用している応力状況を推定することができます。エアガンを繰り返し観測点周辺の同じ場所で発振することは地下の地震波速度,応力状況の時間変化の推定につながります。これらの時間変化と,地震の準備状況との対応を定量的に議論することが今の私が最も興味を持って取り組んでいる研究テーマです。今後,観測を時間・空間的に密に行うことで最終的なゴールでもある地震準備状況の把握とその発生メカニズムの解明につながると信じて日々研究に取り組んでいます。

 最後になりましたが,三ケ田先生をはじめお世話になった大学,研究室の皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門地震津波予測研究開発センター 観測システム開発研究グループ)