客観と主観の融合

化学工学専攻 助教 金 尚弘

金尚弘先生_web.jpg 私は 2005 年 4 月に京都大学工学部工業化学科に入学し,2014 年 3 月に京都大学大学院工学研究科化学工学専攻を修了しました。2014 年 4 月からは同専攻にて助教として採用され,教育と研究に勤しんでいます。
 上記経歴から想像できるように,2008 年 4 月から研究室に配属されて研究を始めた訳ですが,研究テーマとしては「製造プロセスデータの解析による生産性改善」を選びました。平たくいうと,いま流行りの AI(Artificial Intelligence, 人工知能) を活用して製造プロセスを良くすることを目的としています。より具体的には,コンピュータや数理アルゴリズムを使って,製造プロセスで取得されてきた膨大なデータを解析し,製造プロセスに異常が無いかの判断や, 製造プロセスの将来の状態予測を自動的に行うことができるシステムを構築します。「見える化」をしているといったら想像しやすいかも知れません。さらには,より良いシステムを短時間で低コストに構築するための方法論の研究・開発・実用化をしています。
 方法論の研究では,高い客観性,再現性,汎用性が求められます。言い換えると,いつ,誰が,どこでやっても同じような結果が得られること,様々な状況下で使えることが良い方法論なのです。ですから,徹底的に属人的な判断を排除し,客観的な指標に基づいて判断,解析を行えるようにアルゴリズムを開発します。こういう思考回路を基礎として研究を何年も続けていくうちに,今思うと不遜で恥ずかしいのですが,データさえあれば何でもできると思い始めました。だた,さらに数年後には,データだけに基づく方法論の限界が見えて,データだけではどうにもならないことが理解できてきました。今でも,社会にとっては意味がある研究はできていると自負はしていますが,もっと感覚的な要素も研究に取り入れていいはずだとも感じ始めていました。
 ちょうどその時期に,スポーツケア整体研究所の松村卓氏に出会ったことをきっかけにして,今では身体感覚や身体機能に関する研究にも携わっています。松村先生が独自に開発した,骨ストレッチという体操を行うと,即座に體(からだ)が軽くなり腰痛 / 首痛 / 肩こりの症状が改善しました。このような事例は多数報告されているのですが,松村先生自身も骨ストレッチが身体に効果を及ぼす機序を明確に理解しておらず,自分の身体感覚を頼りに骨ストレッチを作ってきたそうです。私自身も骨ストレッチを習うことで主観・感覚を磨き,かつ,骨ストレッチ,身体感覚の正体を解剖学や運動力学の観点などから客観的に明らかにしていく予定です。
 方法論の研究は主観を排除することを重視する事に対し,松村先生は主観を重視して骨ストレッチを作ってきたと言えます。しかし,どちらの研究も, 主観と客観のどちらかを完全に排除している訳ではなく,両者をうまく融合させているはずで,そうしているからこそうまくできることがあります。この辺り,もう少しちゃんと文章にしたいのですが,なかなか難しいので,今回はここまでとさせて下さい。書かない方が,読者の想像力を搔きたてるかも知れませんし。

(化学工学専攻)