変幻自在のマイクロマシンがつくりたい

助教 名村今日子

名村今日子 私は2015年に京都大学大学院工学研究科マイクロエンジニアリング専攻で博士(工学)の学位を取得,同年に同専攻助教として着任し,現在に至ります。小さい頃から工作が好きで,紙・輪ゴム・針金などの身近な素材を使ってとにかく色々なものを作っていました。顕微鏡を使ったプランクトンの観察も大好きでした。クンショウモの立派な形に感動したり,ワムシの珍妙な動きに目を奪われたりするうちに,目に見えないサイズの動くものが作りたいと思うようになっていました。そして学部生時代,廊下に貼ってあった奇妙な形態を持つ薄膜の電子顕微鏡像に目を奪われ,今もお世話になっている鈴木基史先生の研究室に入りました。
 2014年頃,薄膜の光熱変換特性を調べるために,水の入ったセルを薄膜の上に作り,レーザー光を照射しながら顕微鏡で観察を行なっていました。すると突然,水中にマイクロバブルが生成し,その周りに非常におもしろい流れができたのです(図1)。詳しく調べていくうちに,これはマランゴニ対流という,表面張力の不釣り合いによって生じる流れで,その研究の歴史は100年に及ぶことがわかりました。同時に,実はµmスケール以下でのバブルの挙動やその周りの流れの発生原理というのは完全には解明されていないということもわかりました。
 バブルは主に沸騰およびキャビテーションの分野で長く研究されてきました。しかし,µmスケールの空間に急峻な温度勾配があるような環境下でのバブルの研究は主流ではありませんでした。実はこのスケールが大事で,微小空間では重力などの体積に働く力よりも,表面張力のような表面や界面に働く力の方が支配的になります。このように表面の効果が引き出されることで,マイクロバブルはあたかも微細なポンプのように働きます。私はこのプランクトンにも似たバブルの動きと周りの流れに魅了され,今もその研究を続けています。将来的には,バブルだけに囚われず,表面や界面の形や動きをµm・nmスケールで制御し,変幻自在のマイクロマシンを作りたいです。
 最後に,是非この場を借りて皆様にお伝えしたいことがあります。実は私は2021年に出産し,2021年9月まで育児休業を取得していました。幸い,夫と勤め先の会社に理解があり,私の職場復帰後半年間は,夫が育児休業を取得してくれることになりました。おかげさまで私の職場復帰は非常にスムーズでした。一番良かったのは,夫が育児と家事と仕事を並立させる大変さを理解し,子どもが保育園に入った後の生活リズムの構築について真剣に考えるようになったことです。育児方針や家庭の状況にもよると思いますが,男性の育休取得には大きな意味があると思います。自分が育休を取得しても役に立たない,などと思わず,是非取得してほしいです。特に,共働きの場合は,パートナーの育休と被らない時期に取得してみてください。家事や育児への理解を深められるだけではなく,育休により生じる仕事上の様々な問題(RA経費,設備購入のタイミング,学会の機会を逃すなど)を体験できます。その経験は,今後様々な制度設計をするときに役立つはずです。今後も色々な機会に,このような耳が痛い話をするつもりですが,よろしくお付き合いください。

(マイクロエンジニアリング専攻)

図1:水の局所加熱によって生じるマイクロバブルとその周りの流れの可視化。
図1:水の局所加熱によって生じるマイクロバブルとその周りの流れの可視化。