鉄は石で切り,石は鉄で切る!?

技術職員 平野裕一

 長尺物の硬い材料を切断するのに,回転式カッターで切断する方法があります。そのカッターの刃の材質は,切断しようとする対象の材料によって異なります。対象が鉄鋼の場合は切断用の砥石(写真1)で,コンクリートや石材の場合は鋼製の刃(写真2)を用います。これを切断機(写真3)に取り付け,刃を回転させて長尺材料を切断します。

 もう少し正確にいうと,この方法はそれほど精度を求めることができない方法です。そのため,この方法で切断したあと,材料の使用目的と精度に応じて切断面の成形,面取りをして仕上げていきます。
 鉄鋼材料の場合は,石系の工具である切断用の砥石を取り付けた小型の回転式カッターや,研磨用の砥石を取り付けた小型の研磨機,サンドペーパーだけでなく,鉄系の工具である,材料よりも硬い鋼製の切削工具や金属ヤスリを使います。
 コンクリートや石材の場合は,鉄系の工具である鋼製の刃を取り付けた小型の回転式カッターや,研磨用の鋼製の刃を取り付けた小型の研磨機,金属ヤスリだけでなく,石系の工具であるサンドペーパーを使います。
 言い換えれば,仕上げには優れた鉄や石を適材適所に取り入れて用いていることになります。
 ただし,工具の鋼製の刃の先端にダイヤモンドの粒子が散りばめられているものもあり,厳密な意味での鉄・石の分類は難しそうです。
 また,ここでは詳細な説明は割愛しますが,それぞれの工具や刃は,加工方法や対象とする材料に応じて細分化され様々なものがあります。適切な加工には,適切な工具の選択だけでなく,適切な刃の選択も重要です。

 10年前に京都大学に赴任して以来,建設材料としてのコンクリートに関係する実験講義,研究活動に携わっています。そこで取り扱っている材料は,単にコンクリートだけではありません。コンクリートを練り混ぜる前の材料の大部分は石と砂です。練り混ぜたばかりのドロドロの生コンクリートを型取りするための型枠には,鉄鋼,木材,プラスチックの材料が用いられています。また,圧縮力には強いが引張力には弱い性質であるコンクリートを補強するために,鉄鋼やステンレスの鉄筋をコンクリートの中に入れます。構造物の使用目的に応じて,金属やプラスチックの細かな繊維をコンクリートに入れたり,シート状の繊維や樹脂を外側に貼り付けたりする場合もあります。主にはコンクリートと鉄鋼ですが,コンクリートに関係する講義,研究で取り扱っている材料は意外と幅広いです。
 学生時代には機械工学を学び,金属で金属を加工することには多少の経験と知識はありました。前職では公共工事の某発注機関で土木建築工事に関わり,基準書の類に出てくる建設材料の物性値に触れてはきましたが,その物性値の意味を理解し,使われている材料自体を意識することは全くありませんでした。コンクリートをはじめとした建設材料自体を意識したのは京都大学に赴任してからでした。とはいっても,材料の取り扱いについての指導をしてくれる人がいるわけではなく,手探りで様々な材料の知識とその加工工具の扱い方を身に付けていきました。そのような中で,技術指導をする際の切断工具の分かりやすい見分け方を考え出した結果が,標題になります。

 異なる材質の工具を用いて大まかに切断し,精度の高い工具を用いて仕上げ,完成度を高めていく。言葉を置き換えると,なんだか人類の発展の歴史を垣間見るような気がしてきました。
 つまり,あるとき,異質なもの,例えば,外部からの圧力,天変地異によって一時的には現状が大きく改変されて多大な影響を受けるが,高度な技術や能力,人材を使いこなしていくことによって立て直し,これまでよりも優れたものを作り上げていく。
 こうしたことは,人間のあらゆる活動とも相通ずるところがある気がします。

 少々飛躍しましたかな。

(地球建築系グループ)

写真1 切断用の砥石
写真1 切断用の砥石
写真2 鋼製の刃
写真2 鋼製の刃
写真3 切断機
写真3 切断機