長尾文庫

大学院情報学研究科 教授 黒橋禎夫

黒橋禎夫 2年ほど前,長尾眞先生が「自宅でいろいろ始末をはじめていて,本なども全部捨ててしまおうと思っている」と仰いました。私は長尾研の出身で,ご自宅で学生やスタッフが奥様の手料理をご馳走になる機会がありました。その際に何度か書斎を見せて頂きたいとお願いしたのですが「散らかっているので」と仰って拝見することはかないませんでした。
 そこで,これはチャンスと思い「ではぜひ大学に寄贈して頂けませんでしょうか。先生がご自宅でどのような本を読んでこられたのか,多くの人が興味を持つでしょうし,学生さんも刺激を受けるに違いありません」と申し上げたところ,「だったら大学に置いてもらってもいいが,迷惑にならないかちょっと相談してみてくれ」と仰いました。早速,図書館機構長の引原先生にご相談し,桂図書館での受け入れをご検討頂きました。
 しかし,大変残念なことに,長尾先生は一昨年の夏に転倒され,頭を強く打って入院されました。コロナ禍で病院にお見舞いに行くこともできませんでしたが,奥様,息子様を通じて,一昨年11月に寄贈のご了解を頂き,昨年4月に桂図書館に搬入して頂きました。
 その過程で,奥様,息子様に本の分量をお尋ねしたのですが,本棚の総延長が120mであると伺い,最初は耳を疑いました。実際,寄贈頂いたのは約5000冊,情報学・言語学等の専門書から,ご趣味の書道の書籍,また哲学・宗教をはじめとする教養全般にわたる幅広い内容でした。この分量の本を受け入れ,整理して頂いた桂図書館長の岸田先生をはじめ,桂図書館の皆様に改めてお礼申し上げます。
 昨年12月10日には桂図書館に東京大学大学院情報学環の柳与志夫特任教授を来賓としてお招きし,椹木工学研究科長,引原図書館機構長にご挨拶を頂いて長尾文庫お披露目会を開催しました。参加の方々は壁一面の長尾文庫を興味深くご覧になっていました。
 長尾眞先生は昨年5月23日に享年84歳でご逝去されました。先生は神職の家にお生まれになり,若いころから哲学的思索を重ね,ご著書の中でも「自己を律し全人的に生きたい」と仰っていました。長尾文庫には,情報学という学問分野を切り拓くとともに,後進の育成,大学運営,学術の振興発展等,多岐にわたり総合的な貢献をなさった長尾先生の魂が宿っているように感じます。先生は心から京都を愛しておられました。京都を一望する桂丘陵の地から,京都大学の発展と「地球社会の調和ある共存」を見守っておられると感じます。

(大学院情報学研究科 知能情報学専攻)

桂図書館の内観
桂図書館の内観
長尾文庫の様子
長尾文庫の様子

参照:
京都大学 桂図書館 長尾文庫
https://www.t.kyoto-u.ac.jp/lib/ja/katsura_library/collections/nagao 京都大学 桂図書館 長尾文庫.png