広大な離散空間で宝物を探す

准教授 原口和也

原口先生 私は2020年9月に情報学研究科の准教授として着任しました。所属研究室は数理工学専攻・離散数理分野,学部の担当は情報学科・数理工学コースです。学部・大学院と学んだ場で教育研究に携われる機会に感謝しています。
 所属する離散数理分野研究室では,組合せ論やグラフ理論など,離散的なモノを対象とした離散数学を取り扱っています。高校数学で言えば順列・組合せの話題がその範疇です。数ある離散問題の中でも,興味の中心は離散最適化問題です。与えられた制約条件の下,「最良」の解を問う問題を最適化問題と言いますが,解空間が離散的な構造をとる最適化問題を離散最適化問題と言います。オペレーションズ・リサーチやスケジューリングなど,世の中に現れる様々な計画問題・意思決定問題を,離散最適化問題として表現(モデリング)することができます。実問題そのものがピタリと当てはまるようにモデリングするのは難しい場合でも,議論の参考となるような解を問うようにモデリングすることは多くの場合可能です。そのため離散最適化問題のモデリング手法,およびこれを解くためのアルゴリズムや実装について研究を重ねておくことには実用上大きな意義があります。
 この問題の解空間は一般に有限なので,解空間を網羅的に探索することで最適解を得ることが可能です。しかし難しいのは,解空間のサイズが,入力されるモノの個数に対して指数関数的に増大することです。そのため比較的規模の大きい実問題をモデリングした場合,たとえ最先端のスパコンを駆使したとしても,網羅的探索によって最適解を得るのは困難です。すなわち人の寿命,あるいは地球の寿命以上の計算時間を必要とすることさえあります。そのため工夫が必要となるわけですが,この工夫こそが研究の面白いところです。たとえば,「良い」構造を持つ問題にモデリングすることができれば,たとえ解空間は指数サイズであっても,網羅的探索を行うことなく「効率良く」最適解を求めることもできます。またそれが難しい場合でも,分枝限定法や動的計画法を用いた網羅的探索の効率化や,厳密な意味での最適解を得ることは諦め,良質の解を実用的な時間で求めるための近似解法を検討することは可能です。
 私はこれまで,専門分野の中の研究としては,最後の近似解法を中心に研究を続けてきましたが,琵琶湖の湖水観測地点の配置問題や,遺伝子発現における擬時刻推定問題など,他分野との共同研究も行ってきました。現在は,所望の性質を持つことが期待される化学構造の推定に関する研究プロジェクトに参加しています。解くべき実問題あっての離散数理です。関連した問題をお持ちの方は,是非お声がけください。

(情報学研究科)