ニッチな分野の研究者として生きていくこと

国立研究開発法人建築研究所 田村 篤

 2019年9月,現在勤めている「国立研究開発法人建築研究所」への採用が決まり,いよいよ学位取得に向けた大詰めとなっていたころ,建築学専攻の学生が主体となって発行している「traverse 新建築学研究」という雑誌に「自分の仕事を好きにならな」という記事を寄稿しました。私の所属していた金多研究室には,ゼネコンを定年退職した建設技術者である吾川正明さんが研究生として所属されており,お世話になったその人の半生をどうしても記録に残したくて書きたかったのです(ちなみに吾川さんは現在同研究室で学位取得に挑戦されています)。その時,就職に不安だった私に吾川さんは「自分の仕事を好きにならなあかん」といいました。「天職に就かないと残りの人生を楽しく過ごせへんやん」と。
 あれから既に7年が経ちました。相変わらず私は研究という仕事が好きなままでいます。一方,この言葉には当時とは違う意味も感じています。
 何せ私が就職した建築研究所というところは国土交通省所管の国立研究所であり,今年で創立80周年となる古式ゆかしいお堅い職場です。大学とは違い,物品を購入する際にも入札をかけなければならず,本が届くのは2か月後が当たり前。何をするにも他課や幹部との調整が必須,まさに「お役所」といった趣です。私の他に同期が2人いましたが,早々に大学に戻ってしまいました。きっと忸怩たる思いがあったのでしょう。
 ただ,私は建築分野の中でもまあニッチな分野である「発注・契約方式」で学位を取りました。当時は本当に空きポストがなく,色々と探してようやく見つけた就職先であり,私には「やっぱり大学に戻ろう」というような余裕はありませんでした。
 結果,研究所から要求される仕事は全部素直にやってみることにしました。入所当時にBIM(Building Information Modeling)の研究をやってくれと言われれば一から勉強して,現在では国際発表ができるところまで知見を深めました。
 1年間国土交通省に出向してくれと言われれば,平日は霞が関に通って国家公務員として行政の仕事を務め,土日は研究者として論文を執筆する日々を過ごしました。
 もちろん本業の発注・契約方式の研究についても手を抜かず,公共建築工事における発注・契約方式の活用割合を全自治体へのアンケート調査から明らかにすることができました。
 そうしてくるとなんとなく今の自分の職場の美点というのも見えてきます。社会政策の立案に近いこと,そのための予算取りが容易であること,幅広い分野の研究者との交流ができること。「物品が来るのが遅い」,「調整が大変」ということも,これらの裏返しでもあったわけです。全自治体へのアンケート調査も,大学の研究者ではなく「国立研究所の研究者」だからこそ,お忙しい中ご回答いただくことができたと認識しています。
 このように,仕事も人も大体嫌なところばかり先に見えて,後からよく見てみると「こんな良いところがあるんだ」と気づかされることが多いです。自分に合う仕事や職場を見つけて「自分の好きな仕事に就く」のと同じくらい,仕事や職場に自分を合わせてあげて,「自分の仕事を好きになる」こともまた大事なことだと,いつかの言葉の意味をかみしめている今日この頃です。

(建築学専攻 2020年3月博士後期課程修了)

参考文献:
田村篤:【金多研究室】吾川正明「自分の仕事を好きにならな」, traverse 新建築学研究― Kyoto university architectural journal, Vol 20, pp.74-79, 2020.1
(https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/items/87111854-6556-4a09-91a9-fc627afece9d)