メカニズム・デザイン

機械理工学専攻 助教 寺川 達郎

顔写真_機械理工・寺川 私は2010年の4月に京都大学工学部物理工学科へ入学し,2019年3月に京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻を修了,同年4月から助教として着任し,現在に至ります。
 学部4回生のときに小森雅晴先生の機械機能要素工学研究室(現・振動工学研究室)に配属され,以来,修士,博士,助教と足かけ8年お世話になっております。当研究室は機械の動く仕組みやメカニズムを主たる研究対象としており,分野で言うと機構学を専門としています。機械工学と言えばいわゆる四力(材料力学,流体力学,熱力学,機械力学)が基礎として位置づけられており,機構学もしばしば機械力学と合わせて扱われます。機構学は一言で言うと機械を構成する要素の相対運動を研究する学問ですが,その工学的な目的は「所望する機械の動きをどのようなメカニズムで実現するか」にあります。機械を創造,設計するプロセスを直接的に扱うという点で,機構学は機械そのもの(文字通りの“メカ”)に最も距離の近い分野の一つと言えるでしょう。
 さて,機械を創造,設計すると一口に言っても,そこには唯一の正解,真理があるわけではありません。もちろん「与えられた仕様から機械の構成や寸法形状を決定する」という課題であれば,四力をはじめとする理論を用いて対象を適切にモデル化することで,ある程度は解析的,収束的に解を得ることができます。しかし,より抽象的な領域(極端な例で言えば「新機構をつくる」など)では,解の候補は無数に存在するため,思考は発散的になります。このようなプロセスの方法論を記述することは非常に難しい問題です。実際の機構学の研究は,特定の機構にフォーカスして,その特性を突き詰めていくアプローチを取ることが多くあります。私自身の研究履歴としても,パラレルメカニズムに始まり,移動ロボット,アクチュエータ,動力伝達機構などの研究(写真1)に携わってきましたが,やはり研究をスタートするときにはまず対象とする機構を規定するところから始めています。ところが,そのようにして様々な機構をひとつひとつ深く掘り下げていくと,ある時突然にその背後にある支配法則に思い至ることがあります。ひとたび法則を見つけることができれば,その法則の下でまだ見ぬ機構を探すことにより,新しい機構をも容易に創造することができます。このような機構横断的な法則や理論を探索し,追究することが現在の私の関心の一つです。

pic.1 これまでに携わった機構の例
これまで携わった機構の例(写真1)


 ところで,ここで述べた考え方は専門分野の研究のみから学んだものではありません。私は修士・博士後期課程在籍時に5年一貫の博士課程教育リーディングプログラムであるデザイン学大学院連携プログラム(京都大学デザインスクール)に参加し,異分野・異文化に属する方と交流する機会を持つことができました。時にはワークショップの実施や論考の執筆など一般的なカリキュラムではなかなかできない体験も経つつ,デザインという概念への理解を深めたことが研究の枠組みを捉え直すことにつながりました。このことに限らず,学生時分に得た縁や経験は今も私を助けてくれる大きな財産となっています。
 入学から10年という歳月を経て,学生から教員という立場になったことは何とも不思議な感覚ではありますが,これからも初心を忘れず精進したいと思います。            

(機械理工学専攻)