コロナ禍に直面して ―工学研究科の取り組み―

■大嶋正裕 工学研究科長・工学部長
 コロナウイルスの世界的な流行は,活動の自粛,経済活動の低下,社会生活の困窮化など,決して平穏とはいえない状況をもたらしている。その状況のなか,我々一人ひとりに,社会と個人のバランスの上で,的確な判断とは何かが問われ続けている。
 工学研究科・工学部でも,新型コロナ感染によって,1月後半から現在に至るまで,通常ではないさまざまな事項に対して,判断を迫られ決断をしてきた(過去形ではない,今も毎日続いている)。退職記念パーティの一年延期,新入生ガイダンスの中止,3月の学科長・専攻長会議・代議員会の対面での開催,それらの会議の4月以降のZoomによるオンライン開催,オンライン投票手法の実施,対面授業の中止とLMSを使ったオンライン講義の早期実行,追試を含む大学院入試の実施など,その事項は枚挙に暇がない。そして,決断をして実施するために多大な時間が費やされ努力が払われた。その行動を鼓舞する言葉はありきたりだが「ピンチをチャンスに」であった。決断が,すべて正しかったかどうかはわからない。ただ,費やした時間と努力は無駄にしたくはない。
 前期の授業が終了しようとしている今,オンライン授業で大きな問題があったという報告は受けていない。2回生以上の学生は,オンライン授業の方が通常の対面授業より勉強しているというアンケート結果も出てきている。オンラインで授業をする新しい道具(授業法)を,
我々は手に入れたように思う。手に入れたオンライン授業法を,コロナ禍が終息した後でも,積極的に生かして授業を組み立てていくべきだろう。対面授業・演習とオンライン授業とのハイブリッド化のやり方をすぐにでも検討する必要がある。工学の教員にとっては,桂と吉田のキャンパス間の移動に2時間近く費やしていた。その時間を研究と授業内容のさらなる充実に活用できる意味でも大きな変化となる。
 オンライン会議も同様である。各種委員会で,オンライン会議による参加を可としたことで,出席率が上がっているという報告もある。教員の研究時間を増やすための一つの手段として,オンライン会議による会議の効率化を今後も図っていくべきだろう。
 アクティブラーニング,反転学習という言葉が,新しい教育法として世間をにぎわせて久しい。ICT教育もしばらく前から聞こえている言葉である。会議数の減少,会議時間の短縮を進めるべきという言葉もしかりである。しかし,残念ながら,工学では,どれも今まで十分に進められていなかったように思う。「ピンチをチャンスに」。これだけ苦労したのだから,後々生かさないと,もったいない。

■塚上公昭 桂地区(工学研究科)事務部長
 この原稿は,新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)の拡大が終息に向かいつつある時期を想定して記し始めていたが,原稿提出時期になって,再び感染が拡大し始めている。この現状を憂いつつ,以下,本年4月,5月の事務の取組み内容を紹介させていただきたい。
〇部局対策室の設置
 4月1日に工学研究科部局対策室を設置。構成員は運営会議委員を中心に環境安全衛生センター長,事務部課長により,学内,研究科内最新の関連情報を共有し,罹患者,濃厚接触者発生時の連絡調整対応,室長である研究科長の方針決定の際の諮問機能を果たすことが主な行動であった。
 事務部職員は,常勤,非常勤問わずすべての職員を対象に以下の対処を行った。
〇時差通勤の実施
 大学事務本部からの通知に基づいた最初の対応。
〇テレワーク(在宅勤務)の実施
 大学事務本部からの通知後,速やかに各研究室の対応を促すとともに,桂地区(工学研究科)事務部として取り組みを始めた。後述するが,工学研究科附属情報センターの支援による当事務部ならではの取組みを評価したい。
〇分散勤務
 行政が提唱する「三密」を避けるための方策として,桂地区,吉田地区双方で会議室やスペース借用による事務室分散を実施した。
 今回の事務部職員の勤務形態は,グループ分けしたメンバー内に罹患者が発生した場合に,そのグループ全員が自宅待機となることを想定し,一つの課を横割りで二つに分け,その両グループが縦割りでテレワークと出勤を交互に繰り返し接触を避ける。さらに出勤したグループが半分に分かれるよう分散勤務とし,罹患者発生時にできる限り業務の停止状態を防ぐという理念である。
 その要となる,テレワークの実施について,一番の課題は,大学保有情報資産の情報セキュリティの維持確保であった。また,そもそも桂地区事務部事務用ファイルサーバで保有する業務データと大学のファイルサーバとは直接的にリンクしていないため,別途膨大な事務管理データを大学のシステムに置き換える等の作業が発生することが見込まれた。そこで,工学研究科附属情報センターの支援により通常業務で使用している桂地区事務部事務用ファイルサーバに対し学外からの安全な接続を可能とした工学版シンクライアントシステムを急遽構築し,セキュリティを確保,事務の在宅テレワークを可能としていただいたものである。
 会議形態の取組みは以下の通りである。
〇研究科内諸会議のオンライン参加,投票システムの構築
 複数の部署が連携しながら,試行錯誤を繰り返し,現状のスタイルを確立,今では通常の会議形態として定着しつつある。
 このように,大小さまざまな取り組みにより,このコロナ禍での業務を推進している。
 幸い,工学事務組織としては,このコロナ禍の状況を新たな業務スタイル構築に向けた克服の機会と捉える体力があったので,事務担当者の皆さんは果敢に挑戦し,実践してくれた。このことに敬意を表し,以上を報告とさせていただきたい。

■村上定義 附属情報センター長
 今回のコロナ禍において附属情報センターとして対応してきた内容について紹介します。3月に最初の課題として出てきたのは,オンライン授業への対応でした。多くの教員はこれまでオンラインで授業を行った経験がほぼない状態で,オンライン授業開始のサポートが求められました。Zoomで本当に授業が出来るのか?という問題や板書授業配信,アカウント作成,学生への授業URLの連絡方法などを検討するとともに,ハブとなって関係各所との調整などを行いました。また,オンライン授業のマニュアル作成や事例共有などを行い,オンライン授業開始のサポートを行いました。短期間での準備にもかかわらず,工学研究科では全学に先行して4月8日にオンライン授業を開始することができました。
 次に課題となったのは,事務職員のテレワークへの対応でした。自宅にあるPCを利用して直接ファイルを取り扱うなど事務作業をすることはセキュリティ上問題があります。そこで,当センターが数年前からBクラスター事務職員を対象として導入を進めて来たシンクライアントシステムを用いることを考えました。自宅PCから大学内の仮想デスクトップ環境に接続し,事務作業を行ってもらうことにより,セキュリティ上の問題を解決するとともに,新たにテレワーク用にPCの調達が不要となりコスト面でも大きなメリットがありました。このため,既存のシンクライアントシステムの増強や大学内のネットワークに接続するためのVPN環境を新たに整備しました。これにより,安定的にシンクライアントシステムに接続し,事務作業を進めることができる様になりました。
 最後の課題として出てきたのは,テレビ会議による大学院入試問題作成におけるセキュリティの確保でした。この時点で利用していたZoomシステムでは情報セキュリティポリシーを満たしていないため,エンドツーエンド暗号化が必要であり, Webex (E2EE)を導入し,画面共有などオンラインで機密情報を扱う際の注意点を含め,会議の運営方法を提案しました。その他,入試問題をテレビ会議で取り扱うために必要な情報格付け緩和の検討や,教員間で安全にファイル共有を行うためにはどう対応するのかについて,関係各所との調整などを行いながら,多くの検討を行いました。
 今回のコロナ禍では,これまでに経験の無い対応を求められ,当センターとしても次々に課題が発生し,その時点での最善と思われる対応策を提供してきました。今後もコロナ禍が続くと予想されますが,より改善された対応策を発見し,サポートできればと思っています。

■山路伊和夫 技術部技術室長
 4月半ば,1通のメールが舞い込んできました。
「このコロナ禍のなか,京大病院でも医療物資の不足が懸念される状況にあるようです。阪大病院ではアイガードを阪大工作センターの協力を得て自作しているとの情報を得たが京大工学部で自作に協力していただける部署はないかと・・・」
 情報は添付された1枚の写真(写真1)。

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(写真1)

 周りの職員を巻き込んで使われている材料,形状などをリサーチ。これをもとに加工方法や仕様を検討。調べている最中,「アイガード」と言う商品を発見しました。この商品は不織布のサージカルマスクにワンタッチで何度でも脱着できます。どうせ作るのなら商品に近いものをと再設計をしつつ脱着できるテープを調達。しかし問題発生。製作枚数はなんと3週間で1万枚。また,これにあわせ顔全体を覆うフェースシールドも製作できないか検討しました。この時期中国からの輸入に頼っており手に入らない状況はご存知の通りです。誰もが簡単に作れるもの,そして材料調達が簡単で安価なものを設計,考案しました。しかしながら人手が足らず思案していると「力になれないか」と言う支援の声があがり始めました。研究科長をはじめ総務課企画広報掛の御協力のもとボランティアを募り人手の確保に至りました。作り方は簡単ですが皆様に短期にどう伝えるかが課題です。始めに製作マニュアルを作り,解りやすいように動画配信もしました。工学研究科の教職員有志の皆様のお力を借りてGW明け10日間で900個のフェースシールドを作り,1万枚のアイガードとともに京大附属病院の方々に納めることができました。このコロナ禍の中,結構難題でしたが,協力すれば「何かできる」という事を実感いたしました。コロナ禍や災害は医療や経済にマイナスだけではなく,改めて「皆で考え協力する」というプラスの面を生み出したのかもしれません。御協力していただいた皆様に感謝いたします。

 

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製作したフェースシールド

 

製作したアイガード
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病院でのアイガード装着風景1 病院でのアイガード装着風景2