テクノサイエンスヒル桂を目指して

学術研究支援室 URA 大西 将徳

 

大西様 「イノベーション・コモンズ」。2020年12月16日,桂図書館開館記念式典で文部科学省からの来賓祝辞の中で言及された言葉です。“共創拠点”を意味するイノベーション・コモンズとは,様々なステークホルダーが集い,連携し,イノベーションを生み出していく拠点。これからの国立大学のキャンパス像を象徴するキーコンセプトの一つです。2003年10月にサイエンスとテクノロジーの融合,地域に開かれたキャンパス “テクノサイエンスヒル”をコンセプトとして開学した桂キャンパスと大きく重なります。そんな共創拠点のハブとして桂図書館が動き始めました。

 

 

桂図書館開館記念式典でのテープカットの様子(2020年12月16日)
桂図書館開館記念式典でのテープカットの様子(2020年12月16日)

 2017年,私がURAとして桂キャンパスで勤務を始めた頃,キャンパス内の草刈りをする業者の方々の作業が目に留まりました。なんとキャンパス全体で年間1000万円もの経費がこの作業にかかっていることに驚くと同時に,京都大学という最先端の研究が幅広く行われている現場で,なんとも原始的な方法でキャンパスが維持されていることに,どうにかならないものかという思いを強くしました。例えば草刈りならば,草刈りロボット,農薬,場所の有効利用法など,京都大学で行われている様々な研究シーズによる解決法がありそうです。もしそれが実現できれば,キャンパス維持に貢献するだけでなく,研究者にとっては研究を進める機会となります。また京都大学の最先端の研究から生み出される知見をキャンパス維持に還元しているということになれば,ブランディングにも一役買うはずです。近大マグロが近畿大学のブランディングに一役買ったように,京都大学のキャンパスに一歩足を踏み入れれば,そこは最先端の研究の知を結集した近未来の社会の姿が見られる,となれば,京都大学の研究を内外に大きく発信するチャンスとなるはずです。しかし現実は,桂キャンパスを歩いても,ここでどのような研究が進んでいるのかは一見してわかりません。研究者でさえ,このキャンパスでどのような研究が行われているのかあまり知らないのではないでしょうか。

 進行中の研究を可視化することで研究を推し進めていく,という思いは,私のある経験によっています。2008年11月,私は日本科学未来館の科学コミュニケーターとして毛利衛館長に新しい企画のプレゼンをしていました。京都大学大学院人間・環境学研究科 酒井敏教授が研究を進めていた「フラクタル日よけ」を “生きた” 実験展示として日本科学未来館のエントランスに設置するという企画です。「フラクタル日よけ」は,日よけの形状をフラクタル状にすることで,直射日光があたっても日よけの表面温度が低く抑えられ,結果として輻射熱が小さくなることで快適な温熱環境が作られるという日よけです。従来型の日よけは,日光は完全に遮りますが,日よけ自体の温度が大きく上昇するためその輻射熱で暑く感じてしまいます。当時,京都市中京区の新風館中庭で実証研究を進めていた酒井教授は,さらに大きなスケールでの実証研究の場を必要としていました。一方,未来館では多くの来館者が暑い夏でもエントランスの長い待ち列に並びます。最先端の研究が拓く世界観を発信する未来館,実証研究の場を求めている研究者,両者の想いが合致し,2009年6月~8月,日本科学未来館エントランスにフラクタル日よけの実験展示「シェルピンスキーの森」が登場しました。 

日本科学未来館に設置された「シェルピンスキーの森」(提供 日本科学未来館)
日本科学未来館に設置された「シェルピンスキーの森」(提供 日本科学未来館)

 「シェルピンスキーの森」は,研究を大きく前に進めることになります。250㎡の大面積で実験データが取得できたことはもちろん,東京お台場という地の利もあり,メディアにも取り上げられた他,年間100万人近い来館者が訪れる未来館で実際に多くの方の目に留まることで研究への認知度や理解が進み,その後の共同研究や社会実装を後押ししました。

 2019年秋,開館を半年後に控えた桂図書館での研究支援機能を充実させるため,工学研究科から学術研究支援室の桂地区URAチームに協力の依頼がありました。桂図書館が従来的な図書館ではなく,研究支援機能も備えた新しいコンセプトの図書館であることにわくわくしたのを覚えています。ただその機能はこれから充実させていくということで,その企画の一端をURAチームがともに検討していくという光栄な機会を頂くことができました。検討の中で重要なキーワードとして挙がってきたのが,「テクノサイエンスヒル」そして,研究の可視化により研究を推し進めていくということでした。桂キャンパスの開学当時に掲げられたテクノサイエンスヒル構想のように,様々な研究者,研究を融合させ,また地域に開くことで,産学連携の活性や市民の研究への理解を深めていく。そのための拠点として桂図書館を位置づけ,そこでの展示,WEB発信,実証研究,イベント等を通じて研究を様々なステークホルダーに可視化していくというものです。  2020年10月14日,コロナ禍の開館制限下の中,桂図書館での研究シーズ発信がスタートしました。第1期の展示は8名の研究者に協力頂き,図書館内の実物展示とWEB上での発信です。展示は,キャンパス内の研究者同士が結びついて新しい研究が進んで欲しいという願いから「隣は何をする人ぞ」と銘打って,4半期ごとに更新を予定しています。またWEBでは,桂キャンパスで生まれた研究のタネを届けます,という思いから「桂産直便」という一連の研究者インタビュー動画を配信します。キャンパス内での実証研究も現在計画中です。キャンパスに一歩足を踏み入れれば,そこは最先端の研究の知を結集した近未来の社会の姿が見られる,そんな桂キャンパスを目指して。イノベーション・コモンズとしての桂キャンパスが動き出します。

桂の庭の展示の様子(撮影 片山達貴)
桂の庭の展示の様子(撮影 片山達貴)

(附属学術研究支援センター 特定専門業務職員)

桂の庭ポスター / アートディレクション: 原田祐馬(UMA/design farm)/ デザイン: 岸木麻理子(UMA/design farm)/ イラストレーション: 北村みなみ
桂の庭ポスター / アートディレクション: 原田祐馬(UMA/design farm)/ デザイン: 岸木麻理子(UMA/design farm)/ イラストレーション: 北村みなみ
参照:
桂の庭 京都大学桂図書館 研究シーズ・カタログ

桂の庭QR

 

桂図書館開館記念式典 紹介ムービー

桂図書館開館記念式典紹介ムービーQR